DJのひとりが言う。「バイセクシャルの人間を最も受け入れているのが成都だ」と。酒に酔っての発言ではあるが、性的マイノリティーや精神的に不安定な人たちにとっては、「ファンキータウン」で踊り、酔って過ごす時間だけが、悩みから解放される貴重なひと時であることは確かなようだ。

過大な期待を負わされている中国の若者たち

 アジアのドキュメンタリー作品に詳しい伴野氏に、中国の社会状況について語ってもらった。

伴野「前回紹介した『霧の中の子どもたち』*1はベトナムの山岳地帯で暮らす少女たちのドキュメンタリーでしたが、『ファンキータウン』は成都という中国の大都会で暮らす若者たちが苦悩している姿を追ったものです。中国はバブル景気で急成長しましたが、今は足踏み状態。中国の若者たちの多くは、親から過剰に期待され、そのプレッシャーに苦しんでいます。この作品は、そんな若者たちが大人になる前のモラトリアムの場所として、クラブに逃げ込んでいる様子を捉えています」

*1:サイゾーオンライン/山岳民族に残る「嫁さらい」の実情を追う 『霧の中の子どもたち』と日本の非婚化

 やはり「アジアンドキュメンタリーズ」で配信中の『デジタル人民共和国』では、中国の若者たちがオンラインセレブの応援に熱中するあまり、少ない稼ぎを削ってまでお気に入りのセレブに「投げ銭」して貢ぐ様子が映し出されている。

 中国では一人っ子政策が長く続いたが、親からの愛情を一身に浴びて育った若者は、将来、ひとりで老いた両親の面倒を看ることになる。そのことを重荷に感じ、ネット上の仮想空間へと現実逃避し、ただ寝そべってスマホを見るだけの「寝そべり族」も増えているという。それは、夜だけの自由な世界「ファンキータウン」に通う若者たちにも通じる心理なのかもしれない。