銀座の街を歩いていると、突如現れる異質な建物。丸窓がついた箱型の部屋が何層にも積み重なった形状に、通りすがりざま、「この建物はなんだろう?」と疑問に思ったことがある人も多いのでは?

1972年に建設されたこの建物の名は「中銀カプセルタワービル」。建築家・黒川紀章氏の代表作のひとつとして知られる建築物です。なぜこのようなユニークな形状かというと、「カプセル」と呼ばれる一つひとつの部屋が老朽化した際に交換できるよう設計されているから。これはメタボリズム=増殖する、という建築思想に基づいたもの。教養の一つに覚えておきたい、日本の高度成長期の勢いを感じさせるアヴァンギャルドな名建築です。

それにしても、外から見てこれだけインパクトがあるのだから、中はもっと魅力的なのでは?ということで、気になる内部に潜入してみました!

オフィスにするとお客さんにも楽しんでもらえる

中銀カプセルタワービルの部屋は全部で140室。住居として使われているものもあれば、オフィスとして活用されているものもあります。今回、見学させていただいたのはそのうちの3部屋。まずは、オフィスとして使用している、d’oresの代表・宮本匠さんを訪ねました。

早速扉を開けると、中目黒や代官山にありそうなおしゃれアンティークショップのような空間が出現!ここで日々宮本さんはどんな日常を過ごしているのか、そしてなぜここに入居しようと思ったのか伺ってみましょう。

――のっけからこんなスタイリッシュなカプセルに出逢えて驚きですが、宮本さんはここでどんなお仕事をされているのでしょうか?

宮本匠さん(以下、宮本) :空間ディレクションやインテリアデザイン、インテリアバイヤーなどの仕事をしています。この部屋で打ち合わせをすることも多いんですけど、いらしてくださる方は「あの建物の中に入れるなんて!」と喜んでくださいますね。

打ち合わせスペースとしては狭いんですが、だからこそラフに話すことができて仕事が決まることも多いし、お客様の「カプセルの中に入っちゃった♪」という高揚感で仕事につながることもあります(笑)。

とにかく、カプセルのおかげでお客様がみなさんキラキラしているから盛り上がりやすいんです。

――それはステキなお話ですね。そもそもどうしてここにオフィスを構えることになったのですか?

宮本 :独立しようと思っていた矢先、この部屋のオーナーだったお客様から「カプセルをオフィスとして使うのはどう?」と提案していただいたんです。

うれしい反面、専有面積の狭さは気になりましたが、広く使えるように考えながらインテリアをそろえて配置したところ、思った以上に居心地がよかった。

「これだけかっこいい建築なのだから、中はもっとかっこよくしたい!」という思いがあったので、建物内で一番いい家具で構成された部屋にすることにこだわりました。この建物の外観って、漫画・アニメの名作『AKIRA』の世界観に通じるものがあると思うんです。

外には銀座や汐留が見えるのに、銀座っぽくなくて近未来的。僕にとって自慢のオフィスなので、これからも長く使い続けられたらうれしいですね。

住居にしてミニマリストな生活を楽しむ

続いてお邪魔したのは、住民としてこの建物にお住いの田仲森太郎さんのお部屋。ホテルの一室のようにきっちりと整理整頓されたこちらのお部屋は、白を基調としていてリラックス度満点です。それでは、田仲さんにもお話を伺ってみます!

――かなりキレイにお部屋を使われていて荷物が少ない印象ですね!

田仲森太郎さん(以下、田仲) :そうですね。中銀カプセルタワービル内の部屋は改造されている部屋も多いので、建て付けの家具が残っている部屋は少ないんです。こちらはほぼ手が加えられていなかったので、その点も気に入っています。

もともと僕はひとつ上の階に住んでいたんですけど、定期借家だったため、次の住まいをどうしようと思っていたときに、丁度この部屋が空いていると声をかけてもらったんです。以前の部屋は建て付けのものがなかったので無印の家具をそろえていたんですけど、ここに引っ越してくる際に処分しました。洋服は最低限の枚数しか持たないようにしています。

――日々、どんな風に過ごしているのですか?食事は外ですか?

田仲 :朝起きたらまず、近くのコンビニで朝ご飯を買います。その後、僕はフリーランスでCGデザインやグラフィックデザインの仕事をしているので、部屋で仕事開始。お昼は近所のカレー屋と決めていて、夜は朝とは別のコンビニ。お風呂は、現在自室のお湯が出ないので、住民が使える無料のシャワー室を使うか近所の銭湯に行きます。

――デザイナーさんだから3Dプリンターが自室にあるのですね!

田仲 :そうなんです。実はこれを使ってカプセルのミニチュアを作ったこともあるんです。もちろん、製図作成も手を抜いていませんよ。B棟のSさんをスキャンさせてもらって、ミニチュアカプセルの中に入れる人の模型も作りました。その他、カプセルのCGも作って自分のウェブサイトで紹介しています。そのくらいカプセルが大好きなので、これ以上のインパクトがある物件が見つからない限り引っ越せないですね(笑)。