ーー逆に苦い思い出の年越しなどはあるか?

A氏 それはあるさ。正月の休み前に事故落ちして懲罰に座らされたんだ(刑務所内で規則違反などのトラブルを起こし、懲罰房などへ収容されること)。大晦日も罰に座って独居で1人で年を越したことだってあるよ。雑居からは楽しそうな声が聞こえてくるし、あのときは侘しかったよな。テレビや本だって見れないんだ。ただ、官側(刑務官側)も粋でよ、三が日くらいは人間らしい正月を過ごさせてやろうって、懲罰中でも罰の執行が一時停止されて、三が日はラジオを聞くことや本だって読めんだ。でも夢のような三が日を送れば、1月4日からまた懲罰だからさ、げんなりさせられたよな。まあ、悪事を犯しておいて刑務所に来てんだから、正月休みを楽しみにしてるとか、シャバの人たちが聞いたら、ど厚かましい話と思うだろうけどな。

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 元受刑者A氏は苦笑いしながら、こんなことを語るわけだが、これらを聞いて疑問が浮かぶ人もいるだろう。そもそも反省をしていないのか?と。

「『郷に入れば郷に従え』だよ。何年も務めなきゃなんないんだぜ。楽しみくらいは誰だってあるよ。たとえ人殺しだってもな。ただよ東北管区の刑務所はメシもうまいときくから次に刑務所に行くならば、東北の刑務所を希望しようて考えてんだ。外が寒すぎるおかげで暖房もついていると言うし、そうなればもらいだろ」

 懲りてはいないようだ……。

「昔は、今じゃ考えられないことにさ、正月には仲の良い不良好きな刑務官が、こそっとウイスキーボンボンをバレないようにくれたこともあったな。今じゃ、めくれたらタダじゃすまないけどな。緩やかな時代だったんだろうな」

 悪いことをせずに社会で新年を迎えるほうが誰だって良い。しかし、中には中の悲喜交交の思いがあるようだ。

(文=佐々木拓朗)