なにより懲役たちがガキのように正月休みを楽しみにしてる一番の理由はなんと言ってもホヤキ(お菓子)だな。30日あたりからお菓子が配られんだ。大晦日にはカップ麺の蕎麦が食べられて、1年で唯一、消灯時間だって夜の12時になるんだ。起きれば、麦飯が銀シャリになっていてさ、朝になれば、折にお節料理が配られてくる。昔はさ、餅なんかも出ていたけど、毎年、必ずどっかの刑務所で、餅を喉に詰まらせ亡くなっちまうじいさんの懲役がいたので、最近では餅こそ出なくなっちまったけどな。テレビだって布団に入りながら観れるなんて、普段のがんじがらめの生活じゃ考えられないぜ。犯罪者の身分で、シャバよりも正月らしい正月を送ることができてんじゃねえかな。

ーーただ、刑務所によっては正月休みの良し悪しもあるとか。

A氏 その通り。まず移送された刑務所で真っ先に、すでに受刑生活を送っている懲役に聞くのが「ここの正月はよろしいでっか?」ということだろな。つまり、正月休みのお菓子や三が日の飯はいいのかというのは誰でも気になるんだ。「ここの正月は悪いでっせ!」と言われば、もうがっかり。逆だったら、正月が来るのが待ち遠しく、楽しみになる。

 そんな感じで、同じ矯正施設でも一律ではないんだよな。大晦日にまとめてホヤキを舎房にいれてくれるところもあれば、かりんとうや黒飴といったがっかりするようなホヤキをチマチマと1日一個ずつ入れてくる刑務所だってある。テレビだってそうさ。正月休みの間は「自由チャンネル」と言って、好きなテレビを見せてくれたり、録画した気の利いた映画を観せてくれる刑務所もある。それは教育のセンスだったり、メシを担当している用度課の頭の柔軟さで全然違うんだ。

「次に行くなら東北の刑務所」

ーーでは、一番当たりだと感じた正月休みは?

A氏 大晦日に袋詰めのキットカットとカールが出てさ。晩飯食べたら、年越し蕎麦のカップ麺までまとめて支給されてきたことがあったんだ。もうそのときは、ヤクザもカタギの犯罪者もみんな狂喜乱舞してたな。あのときは腹いっぱいになって、もう思い残すことはねえと感じたほどだったよ。ギャグでも大袈裟でもねえぜ。だって刑務所で腹いっぱいになれるなんて、まずない。胸焼けとは無縁の粗食だからよ。常にどの懲役も飢えて腹をすかしてんだ。あの感動はシャバではまず味わうことができないだろうよ。シャバでないだろう。子どもみたいに珈琲飲んだら夜寝れねえなんて。中じゃカフェインなんて飲めねえからよ。たまに飲むと目がギンギンに決まって寝れねえんだよ。