鉄板のツカミで大いにスベると、静まり返ったスタジオに2人のボケとツッコミが無機質な、単なる言葉になって漂う。
この空気に先に耐えられなくなってセリフを噛んだのは、冷静だったはずの畠中のほうだった。つられるように、伊藤もしどろもどろになっていく。
テレビ画面は2分割されている。左半分には必死にしゃべり続ける畠中と、もうダメだと悟って苦笑いするしかない伊藤。右半分には仏頂面の徹子が口を半開きにしている。たぶん、漫才が終わったら2人を食うつもりなのだろう。
伊藤の声が小さい。右手の位置が変だ。
「隣の奥さんにカレーを持ってこられたら……カレーを持ってこられたら……それは……」
伊藤がテレビでネタを飛ばしたのは初めてだという。
「なんでこんなに笑わないなら、やらせるんだよ!」
「どういう了見なんですか!」
静まり返るスタッフに伊藤が吠える。この空気で畠中が徹子に感想を求めたのは、おそらくマゾヒスティックな性癖による行為だろう。
「おもしろいと思いました……あの……あのね……」
徹子ももう、口ごもるしかなかった。
*
オズワルドの出演回は、まさしく『徹子の部屋』に芸人が呼ばれたケースの象徴といえる放送だった。「地獄」という表現が決して誇張ではないことを、まざまざと見せつけてくれた。
『徹子の部屋』芸人回、来年も楽しみである。
(文=新越谷ノリヲ)