咲村良子連載コラム第3回
「ヴィランの花道 ~咲き乱れ 散りゆくままに~」
あぁ、ライトが眩しい。流れ星みたいに光が筋になって、次の瞬間には全身に衝撃が響いている。
今日、この景色を何回見たんだろう、あと何回見るんだろう。しんどいな、つかれたな、痛いな。
正面には観客がいたはずなのに担がれてまた天井のライトを見ている。すごく天井が近い。
上も下もわからなくなりながらも気づいたら叫んで立ち上がって向かっていた。
高橋奈七永と咲村良子のふたりだけの世界がそこには間違いなくあって、静寂。
同時に、見ている人々からの声援、気持ちも全部感じて、背中を押される。永遠に続くんじゃないかと思う一瞬が終わった。
そしてプロレス人生が始まった――。
何度も来た後楽園ホールに今日、初めて選手として乗り込んだ。
気分は浮つきながらも沈んでるような複雑な感じ。逃げられない絶望感が私を震わせる。
何したらいいんだろう?
いつコスチュームに着替えたらいいのかな?
雑用もしないと……。
何もわからない。
リングの準備ができて最後の練習。
がむしゃらに受け身を一通りやって、技の確認をしてみる。全然上手くいかない。調子悪いかも……、なんて思いながら楽屋に戻った。
ナーバス、不安、諦め、絶望感が私を襲う。
でも、そんなどうしようもない心境に慣れている自分もいて、「これこれ、本番前のやつだ。久しぶりの感覚やん」と余裕の私もいた。
そのあとはもう気づいたら出番。
入場口のカーテン裏へ。
私は第2試合。第1試合が終わり、いよいよだ。
私の入場曲が初めて後楽園に流れた。
曲のカウントを数えた。あと4カウントで出なきゃ。3、2……1でカーテンを払って観客とカメラの前に出る。
気持ちいい!
大好きなライトとカメラと観客を前にしてアドレナリンとドーパミンが溢れる。
心臓が半分くらいのサイズに潰された感じ。それでもリングに上がると演者としての条件反射でちゃっかり笑顔で一周まわってポーズも決めて、素敵に振り返って自分のコーナーに向かう自分に感心した。