大勢の中で存在感を放つ方法

──自分、悲しいくらい普通なんですよ。大勢の中から注目されて興味を持たれる方法を伝授してください。特に初対面の人にどうアピールすれば選ばれる存在になれますか。

新井 :シナリオの場合は、登場人物を魅力的にする方法として、「憧れ性」と「共通性」の二面性を描くという技術があります。仕事となるとどうしてもデキる自分=憧れ性をアピールしたくなりますが、ともすればいけすかないと思われてしまう恐れもあります。

ドラマではキャラクターが初登場するシーンで、多くの人が共感するような共通性を見せたほうが視聴者は魅力を感じるんです。現実の人間関係も同じです。共通性、特にダメな部分を見せていくことですね。

──でも、それでは好かれはしても一目置かれず、その他大勢の枠から出ないような気が……。

小林 :キャラクターが突出していようがいまいが、あなたは唯一無二の存在で、他の誰とも違います。自分が思ったことをきちんと発信できれば、それが個性や魅力となって他の人との差異化ができます。

ほとんどの人は「突出した存在になりたい」と願いつつ、「他人と同じようにしなきゃいけない」と思いがちですよね。例えば、就活のリクルートスーツとか。そんな中で「自分以外に自分はいない」という意識をどれだけしっかり持つかが大切です。

──器が小さいんで、新人のくせに目立つと冷遇されるかもという恐怖があるんですよ。

小林 :日本人のほとんど、特に上の立場の人は個性を認めない傾向がありますね。集団の中でうまくやっていける人が好きだから、その枠から出るのは難しいことです。協調性を維持しつつも、自分をアピールするためには、伝え方が重要です。

同じことを伝えても、人によって受け取り方が違います。ですから、会社の上司や同僚など、それぞれのキャラクターの性格に合わせて言い方を変える……伝えたいことを、相手に合わせていかに伝えるかという想像力と伝える力があれば、一目置かれる人になれますよ。

(企業の研修風景。みなさん頭をフル回転させてシナリオを書いています)

自分をストーリー化して相手の記憶にインプット

小林 :以前、高校の先生に向けて研修をしたことがあるのですが、エントリーシートの書き方が……。

新井 :生徒が出したものを先生が添削したのですが、直されるたびにどんどん個性がなくなって、最後にはどこにでもいる生徒になったんですよ。オリジナルの文章は確かに下手でしたが、その生徒の人となりがイメージとして見えていたのに、先生が直したことによって画一化され、他と同じような内容になっていきました(笑)。

──ネットで検索すれば出てくるマニュアル例文みたいな?

新井 :人事担当者が知りたいのは「就活生がどういう人物なのか」です。例えばなにかに一生懸命取り組んだとしたら、「あなたがどのように頑張ったのか」「その結果どうなったのか」など、情景が思い浮かぶシーンを描く。そうすれば自分を印象づけることができます。ただ「◯◯頑張りました」だけでは、「あ、そうですか」で終わってしまいます。

──まったく響かないし、記憶にも残りませんね。

小林 :みなさんストーリーという言葉をよく使います。でも、ストーリーというのは、一つひとつのシーンの積み重ねです。人間は基本的に文章ではなく頭の中に映像を浮かべます。シーンを描くことによって、あなたという人間のあり方を映像として想像してもらうんです。

そうすれば人事担当者や上司は、「この人だったらこういうときにこんな頑張りをしてくれるだろう」と思ってくれるでしょう。

──確かに私たちはストーリーが大好物ですよね。特に苦労人のサクセスストーリーや商品の開発秘話とか。そもそもなぜ人は物語に引かれるんですかね。

小林 :朝ドラでも主人公が頑張っている姿に視聴者は共感しますね。人の不幸は蜜の味じゃないけど、人は他人の成功には共感しません(笑)。困難に直面し苦労のすえ幸せをつかむ姿に共感するんです。「私も頑張れるかもしれない」と自分を重ね合わせていけるから、みんなストーリーが好きなんじゃないでしょうか。

新井 :単に成功しているところを見ても「あ、すごいね」で終わります。例えば、スティーブ・ジョブズには「無からスタートし、徐々にうまくいって成功したけどアップルをクビになって……」という不遇の時代があります。

試練を乗り越えて成功したシーンが積み重なってできたジョブズのストーリーに、私たちは親近感や尊敬を覚えたり刺激を受けたりして、興味を持つんだと思います。

小林 :だからといって何も波乱万丈とか大袈裟なことじゃなくてもかまわないんです。

新井 :SNSでも相手がシーンを思い描けるように発信することで、あなたの人となりがよりリアルにイメージできますし、それが共感を呼ぶんです。ただ「むかついた」と書いても印象に残りませんが、「こういうことがあったからむかついた」と書けば伝わるんです。伝わる=イメージがわくことですから。

(開催するたび満員御礼のシナリオ講座)

長寿ドラマのごとく不滅の人気キャラになるには

──人の共感や興味をキープして長期的に人を引きつけるためには、どうすればいいんですか。

小林 :好感を持たれる人は他者の話をよく聞きますね。好印象を与え、人を引きつけ続けるには、自分の言動によって相手がどう反応するのかを常に想像することが大切です。シナリオはアクション・リアクションでできています。登場人物同士のリアクションを常に書き、同時にみんなから理解されるように表現しなければなりません。

新井 :主人公の自分を含め登場人物が5人いるとします。他の4人はまったく違う人物なので異なる思考回路を持っていないとアクション・リアクションを創れません。

小林 :自分が非社交的であれば、社交的なサブキャラの言動に共感も理解もできませんが、シナリオを書くことで、ああいう性格なら言動はこうなるはずだと想像することができます。

新井 :シナリオという仮想ストーリーの中で、常に自分と自分以外の登場人物をいろんなパターンで接触させ、それぞれの気持ちになるのを繰り返していくと人間が分かってきます。

小林 :人は自分を理解してくれる相手に引かれます。自分という個性を持ちながら多くの人を理解し、自分の中にある共感してもらえる部分を見せていくんです。そうすれば長寿ドラマのように人々を引きつけ続ける存在になれるのではないでしょうか。(インタビューここまで)

話を聞けば聞くほど、まずは「伝わる」「伝える」ということが人生のあらゆる面で非常に重要なスキルだと実感しました。誰かとつながることが簡単になった今だからこそ「伝え方は自分をアゲる最大の武器にもなるし、伝え方を間違えれば地獄を見ることもあるのだ」としみじみ納得しました。

「伝え方」を極めるには、相手を知り自分を知ることが第一歩ですね。自己プロデュースは自分から一方通行の「演出」だと思いがちですが、まずは相手の立場に立って相手の気持ちを思いやる「人間力」が必要だということが分かりました。

人間関係につまずきがちだったり、面接がうまくいかなかったり、仕事がなかなか認められなかったりする……なんて人は、シナリオ手法の自己プロデュース術を取り入れてみてはいかがでしょうか?

シナリオ・センター
所在地:東京都港区青山3-15-14
問い合わせ先:03-3407-6936

小林幸恵氏
シナリオ・センター代表取締役社長

新井一樹氏
シナリオ・センター取締役副社長 プロジェクト統括

提供・UpU

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