終身雇用制度が崩壊し、SNSの発達により個人の能力や魅力がより問われるようになりました。いかに人を引きつけ、いかに自分に対する興味を持続させるかがカギとなっている現代、ルックスも学歴も経歴もすべて普通の人間が、理想の仕事、恋愛、人間関係を手に入れる方法とはどんな方法でしょうか?今回は多くの人気脚本家を輩出し、大学や企業の人間育成サポートも行っているシナリオ・センターを取材しました。
代表取締役の小林幸恵氏と副社長兼プロジェクト統括の新井一樹氏に、シナリオの創作手法をもとにした、自分という唯一無二のキャラクターを作り上げる戦略的プロデュース法を伺ってきました。
シナリオ手法で人を制す!
──シナリオといえばセリフで構成される映画やドラマの物語ですよね。自己プロデュースとは関係なさそうに思うのですが、俳優になった気分でガンガン攻めていくってことですか?
新井一樹氏(以下、新井) :違います(笑)。
小林幸恵氏(以下、小林) :基本的にシナリオとは、人間ドラマを映像として表現するための設計図といわれています。
>新井 :シナリオにはありとあらゆるタイプの人物が登場します。一人ひとりのキャラクターをリアルに創っていくには、自分とは異なるタイプの人について考える必要があります。
小林 :登場人物それぞれの立場で物を考えられるようになるんですね。例えば、人は物を売るときに、 「うちの商品はこんなにすばらしいんだ」などと自分側のストーリーしか語りませんよね。「お客様が何に困っているのか」「その商品を使うことでどう役に立つのか」を発想していません。
シナリオを書くことで、その人の背景や抱えている事情も踏まえて相手のことをいかに考えられるようになるのかを学べます。
──そうなんですね。大学や企業が取り入れている事実から効果あり感満載ですが、そもそも脚本家養成スクールがなぜ研修をはじめたのですか?
小林 :あるハウスメーカーから相談を受けたのがきっかけです。そのメーカーでは商品説明はできるけど、どうもお客様の立場で考え、伝えることができていない、と。そこでシナリオを使って解決できないかというお話があり、シナリオには伝えるための技術がたくさんあるので、当センターでカリキュラムを作りました。
新井 :企業、市役所の職員などに研修を行っていますが、相手のことを考え、いかに伝えるかというのはビジネスパーソンだけの問題ではないので、今では小学生から大学生までの学生さん向けにも出張授業をしています。
──非常に幅広い年齢層ですが、どんな研修をするんでしょうか。
新井 :小学校の授業では、相手に対する想像力を豊かにしてほしいのと、物語を描く楽しさを知ってもらいたいので、ドラマ仕立てのシナリオを描いてもらいます。
小林 :企業の場合も、他者への想像力は基本になるので、ドラマ仕立てのシナリオを描いてもらうことが多いです。同じ会社内でも上司や部下、他部署など、相手のことを考えながら仕事を進めていくことはチームビルディングの上でも大切なので。
さらに、目的に合わせて、営業やプレゼンなどさまざまな分野で研修をしています。特に営業もプレゼンも、起承転結を意識して、聞く人を常に引きつけなければならないのでシナリオ手法を取り入れるには最適ですね。
なりたい自分を設定して実現までのシーンを創る
新井 :大学生向けの研修では、主にキャリア形成が目的になります。3年後、5年後、10年後はどうなっていたいのか。たいていは「お金持ちになっていたい」とかふわっとしたビジョンなんですけど(笑)。
小林 :給料が高く休みも取れる大企業に入りたいという学生が多いですね。自分が何をやりたいかよりも、とにかく就職したい人が多いのかもしれません。商社から銀行まで、あらゆる業界にアプローチしては落ちていき、その結果まったく違う方向へいってしまうなんてことも。
──うっ……。
新井 :そんな悲劇を避けるためにもシナリオ手法を活用していただきたいですね(笑)。とにかく自分の10年後を具体的に映像、つまりシーンとして考える……例えば「30歳で子どもが二人いて、都内のマンションで暮らしている」などです。研修ではそのシーンを実現させるために何をすればいいのかを逆算して、さらにシーンを創ってシナリオを描いてもらいます。
小林 :まずは自分を知り、どう生きたいのかについて考えないと就活はもとより有意義な人生は送れませんからね。
マイキャラを構築して自分をブランド化
──ハイスペックでもなんでもないんですけど、自分をブランド化したいんですよ。会社を辞めてもサバイバルできるように……。
小林 :スペックと人を引きつける魅力は関係ないですよ(笑)。
新井 :ご自分の今までの経験の棚卸しをしてキャラクターを創り上げてみてください。
小林 :キャリアに焦点を当てた研修では、生意気盛りの10歳の男の子との会話を、シナリオに描いていきます。「なんでその会社に行くの?」とか。10歳の男の子にきちんと分かるように答えていくと、会社に行く理由をはじめ自分のことが徐々に見えてきます。
自分の内心を吐き出していく過程で必ず自分自身を表すキーワードが出てくるんです。それを掘り下げていくことでキャラクターがより明確に浮き彫りになります。
──自分も気づいていない側面が見えてくるんですね。それでもキャラ立ちしない私のような者はどうすればいいでしょうか。
小林 :シナリオでは、登場人物ならではの行動というのが、大切になります。この人ならやりそうなこととか、絶対にやらないこととか。
なので、皆さんも好きなことや得意なことばかりを考えるのではなく、やりたくないこともリストアップしてみてください。例えばスーツを着て仕事したくないとか(笑)。
絶対にしたくないことをリストアップするのも、キャラクターをはっきりさせる方法です。向き不向きもわかるし、やりたくないことをしなくてすむ生き方を実現するための人生設計を立てられます。