昨日は四ツ木翔也(佐野勇斗)には友達がいないという話をしましたが、この人、家もないんだよな。野球部時代は寮に住んでいたようですが、当然、退部したら会社の通勤圏内にアパートなりを借りるはずなんです。そこが省略されている。統括プロデューサー風にいえば「あえて描いてない」のかな。
結(橋本環奈)が自分の部屋でやっている「プロポーズだと思いこんでバタバタ」や「がんばってレシピを作るぞ」、今回なら「ヤケ酒を飲んで二日酔いでグッタリ」みたいな心象表現をする場所が、翔也には与えられていないわけです。
人生をかけて取り組んできた野球を辞めなきゃいけなくなって、この人が何を考えているのか。明らかに、自分の人生を見つめ直すタイミングです。金髪ギャル男になるのはもういいとして、ここには絶対に「翔也がひとりで鏡を見る」というシーンが必要なんです。糸島編の第5話で、アユ(仲里依紗)の部屋で初めて結が髪の毛にヒマワリを付けて鏡を見つめたシーンがあったでしょう。あのシーン、よかったんだよな。『タクシードライバー』(76)のトラヴィスみたいに、何かギャルへのスイッチが入ったような、いい演出だったんです。思えばあの頃はまだ、こんなに綻びだらけの作品になるとは思ってなかった。つらい。
そんなNHK朝の連続テレビ小説『おむすび』第63回、振り返りましょう。
こっちが聞きてーわ!
ランチ合コンで生ジョッキを少なくとも2杯は飲み干し、酔っぱらって感傷的になってしまった結さん。そのきっかけは合コン相手に「せっかく彼氏と同じ会社に入ったのに水の泡やな」「栄養士やってる意味ないな」などと言われたことでしたが、帰路、しょげている理由はそんなことではありませんでした。
「大好きな人が誰より苦しんどうのわかっとうのに、なんであんなに怒ってしまったんやろ」
知らねーわ、こっちが聞きてーわ。
根本的なことを言いますけど、あなたの「大好き」っていうのは何なん? いつ、どこで、どんなところを好きになったんだっけ。このドラマには、主人公が恋人を好きになった理由が描かれてないんです。こういうところが好き、という核心がないから、プロポーズの予感にハシャぐシーンも、野球を辞めることになった翔也に「ウソでしょ……」と言ったシーンも、もちろん「ギャルなめんな!」も、まるで共感できない。見ている限りは主人公に共感したいし理解したいのに、その材料を与えてくれない。これもあえてか? あえてなのか?