◆岡村の優しい嘘と、有紗の表情から伝わる絶望

 有紗が別れを口にした背景として、辛い時に会話ができなかったことだけでなく、さまざまな要素が重なっていた。

 彼女が配車業務でミスした一件を受け、岡村は有紗に「廃車はクビだって」と馬鹿正直には言わず、「(元いた)仕分けの仕事、戻ってきてくれないかな」「みんながさ、『有紗ちゃんが抜けて大変だ』『有紗ちゃんに戻ってきてくれ』ってうるさいんだよ」と優しい嘘をついた。ただ、有紗はそれが嘘だと気づく。信頼していた岡村から、嘘をつかれたことに。

「初恋、ざらり」
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 加えて、「今度こそは」と意気込んで臨んだ配車で大きなミスをしたことにもショックを受け、自分自身が目指す“普通”にはなれないことを悟る。自暴自棄と言ってしまえばそれまでだ。言葉はほとんど発していないもののその表情から、有紗がどれほど追い詰められていたのか嫌というほど伝わった。