あらすじやキャストの役柄などがすべて伏せられたまま始まった大冒険は、雄大なモンゴルの風景と息をつかせぬアクションで視聴者の心をつかんだ“バルカ脱出編”の序盤から、日本に戻ってからは誤送金事件を引き起こした犯人捜しをめぐるサスペンス/ミステリー要素で考察を盛り上げた。そして乃木がただの商社マンではなく、自衛隊の陰の諜報部隊「別班」の一員であり、謎に包まれた国際テロ組織「テント」から日本を守るために行動していることが明かされた後半では、ふたたび舞台をバルカに移し、テントの謎が紐解かれると共に、日曜劇場らしい親子・家族といった「愛」の要素が主題となるという、3部構成で楽しませるエンターテインメント作品だった。

 主人公・乃木もまた、誤送金の濡れ衣を着せられる冴えない商社マンから、ミリタリースクールを全科目主席で卒業するほど優秀な陰の諜報員、そしてテントの創始者でリーダーであるノゴーン・ベキ(役所広司)の実の息子、とそのキャラクターが物語の変化と共にカメレオンのように切り替わっていく。別人格・Fの存在と合わせ、乃木の謎めいたキャラクターと、それを支える堺雅人の演技力が本作を引っ張ったことはいうまでもない。

 乃木が「ベキの息子」という立場を利用して、別班を裏切ったフリをしてテントに潜入していたことが第9話ラストでバレてしまい、最終話はロープで吊るされた乃木に、ベキが刀を振り下ろす……という絶体絶命のシーンから始まった。しかし、ベキが斬ったのは乃木を吊るしていたロープだった。ベキは手に乗せるだけで重さがわかるという乃木の特殊能力から、乃木とともに捕まった別班員・黒須駿(松坂桃李)を撃てと命じた際に乃木が渡された拳銃の弾数を把握して行動していたことを見抜き、「すべて承知の上で……ここまで生かしておいた」と乃木が別班の任務で潜入してきたことに気づいていたことを明かしていた。黒須が拷問を受けても口を割らず仲間を売らなかったこと、乃木が国を守るという己の任務を貫こうとしたことをベキは評価する。乃木の“裏切り”の真意を測るためにベキが乃木に渡した拳銃には弾が込められていなかったことと合わせ、この場面は終盤への伏線にもつながっていた。

 「敵か味方か、味方か敵か」というキャッチコピーのとおり、最終話の最後まで誰が「敵」で誰が「味方」か、どちらが「正義」なのか、目まぐるしく移り変わり、「正解」のない展開を見せた。バルカの広大な土地に眠る、半導体に欠かせない高純度のフローライトの採掘権を手にすることによって、そこから生まれる莫大な利益を孤児たちや貧しい人々に分配するのがベキおよびテントの目的。そこに協力することは、テントが土地購入のための資金稼ぎのために行っていたテロ活動を未然に阻止できるたけでなく、フローライトを日本に優先的に回してもらえれば日本の国益にもつながる。別班の乃木と黒須は、テントと共同戦線を張って、フローライトの採掘権を奪おうとするバルカのワニズ外務大臣(河内大和)と対立。あたかも『半沢直樹』かのような逆転劇を見せた。