受け継ぐメッセージを、未来にも
『ライオン・キング』はドラマチックな物語と可愛らしく個性的なキャラクター、キャッチーな音楽を使いながらも、「絶やしてはならない食物連鎖」や「命がけのリーダー争い」といったシビアな大自然の世界を描いたが、今作もその核の部分を確実に受け継いでいる。単に「ムファサとスカーの過去に泣ける」というエモーショナルな作品にするだけではなく、自然災害やライオン同士の小競り合いといった厳しい現実を物語に落とし込んでいるのだ。
「信じられるのは血のつながりだけ」と主張し、よそ者の子ライオンに攻撃的な目を向けるオバシの行動・言動は非常に残酷に見えるが、実際にライオンの群れにおいては自身の子孫を残すためによその子どもを食べてしまうという習性があり、これも生物本来の姿である。逆に心優しいエシェがそうするように、群れの子どもではない個体、それどころか違う動物の子どもを育てる“無償の愛”“母性”のようなものを見せる動物がいることも知られている。
マッツ・ミケルセンが声を演じたキロスを筆頭に、“はぐれもの”と呼ばれる凶暴な白いライオンたちも印象的だが、これも自然界ではしばしば起きることがもとになっており、色素異常(アルビノ)で生まれた動物は人間には美しく見えても、病弱で群れの他の仲間と異なる彼らは仲間はずれにされがちだというシビアな現実がある。
ムファサとキロスの対立構造においては、「食い荒らすのではなく、未来につなぐ生き方を」という力強いメッセージが感じられる。ここには我々人間へのメッセージも込められているのではないか。今ある資源を食べ尽くし、使い尽くすことは、一時的な快楽・幸福感しかもたらさず、最終的に困るのは自分やその子孫であるという教訓は、“持続可能性”が重視される現代社会に即したものといえよう。