リナと子どもと暮らすことで、幸せをつかんだように思えた進平ですが、心の中では前妻のことを忘れることができずにいたようです。兵役経験のある進平は、戦地で起きたことも誰にも話すことがありませんでした。第5話ではリナを守るために、殺人および死体遺棄という罪を犯しています。進平は多くのものを背負い過ぎていたのかもしれません。

 神木隆之介主演の特撮映画『ゴジラ-1.0』(2023年)でも描かれていましたが、戦地からの引き揚げ者たちは現代人の想像を絶する体験を味わっています。亡くなった人たちに対する罪の意識が、生き残った人たちを仕事人間へと変え、日本は驚異的な戦後復興を果たしたのではないでしょうか。昭和世代の人たちが、仕事漬けの生活を送り、外で酒を飲んで回っていたのは、忘れたい過去があったからなのかもしれません。

日本映画史に残る大ヒット作と重なる展開に

 炭鉱長役の沢村一樹も名演を見せました。人命を優先するために、炭鉱内での消火活動を断念することを島内放送で島民に告げることになります。厳粛なシーンでした。

 このシーンを見ていて、パニック映画の名作『日本沈没』を思い出しました。2021年に日曜劇場で放映された小栗旬主演の『日本沈没 希望のひと』や樋口真嗣監督の『日本沈没』(2006年)ではなく、1973年に公開された森谷司郎監督のオリジナル版『日本沈没』です。日本列島が海に沈むことが分かり、総理大臣の山本(丹波哲郎)はひとりでも多くの日本国民を海外に脱出させようと尽力します。「私は日本人を信じています」という名言を残す総理役の丹波哲郎と、炭鉱長役の沢村一樹が重なって思えたのは自分だけでしょうか。

 オリジナル版『日本沈没』では、主人公の藤岡弘(現・藤岡弘、)といしだあゆみは生き別れたままエンディングを迎えてしまいます。劇場公開時は未完のまま終わった『日本沈没』に不満に感じたのですが、それから50年後に放映される『海ダイヤ』の最終章は、『日本沈没』の第二部を思わせるものがあります。島を離れていった人たちはどう生きていくのか? 鉄平、朝子、それぞれの決断から目が離せません。

日本社会の問題点をえぐる野木亜紀子のシナリオ世界