パニックを起こしそうになったみっくんの皿からからあげを拾い上げるヒロト。

「みっくんに取らなくていいから。混ざるの苦手だからさ」

 ここは演出のファインプレーです。このドラマではさりげなく、ずっとみっくんの食事シーンは「別皿」で描かれてきました。食堂「とら亭」で寅吉さん(でんでん)が出す食事、あんかけ焼きそばもカツ丼も、みっくんの分だけ別皿で提供されていた。ASDの方にはそういうケースもある、という取材をもとに、密かに伏線が仕込まれていたわけです。

 かように、『ライオンの隠れ家』における小森家パートは細やかに、丁寧に作られています。そして、前回のみっくんによる「お兄ちゃんにも、やりたいことがありますか?」にも匹敵するパワーワードが登場するわけです。

「今日は、特別に遊んだら?」

 謎の男「X」から新しい戸籍の用意ができたと連絡を受けた愛生は、翌日にはライオンと2人でペンションを出る決意をします。そのことを知ったみっくんは狼狽しますが、愛生の「ライオンには言わないで」という言いつけを守って、翌日まで秘密にしていました。

 別れが迫ったころ、みっくんは仕事を放り出してライオンと鬼ごっこをしたくなってしまう。ルーティンを守ることでしか生きてこれなかったみっくん、それを守らせることでしか平穏を保てなかった小森家でしたが、やっぱり仕事に戻ろうとするみっくんに、ヒロトが言うのです。

「今日は、特別に遊んだら?」

「特別」を受け付けることができなかったみっくんが、自ら望んで「特別」をやろうとしている。ライオンの襲来による小森家の確かな変化が描かれます。

 脚本も演出も俳優部も、とんでもなく密度の濃いことをやっている。だからこそ、ドラマの全体像としてもっとシンプルにできなかったかなと思ってしまうんですよね。

■サスペンスパートに連れ去られた

 今回のラストでは、愛生とライオンがDV夫の差し金によってペンションから連れ去られてしまったようです。