窃盗の罪で逮捕され、息子である愁人を「殺した」と自白していた愛生でしたが、証拠不十分で起訴猶予。釈放されることになりました。DV夫・橘祥吾は山梨からわざわざ新宿まで身柄の引き取りに訪れていますが、愛生は夫の目を盗んで署の裏口から逃亡。「X」のクルマでヒロトたちが身を隠している佐渡に案内されます。
フェリーが着くとヒロトが愛生を待っていました。勝手に息子を押しつけて姿を消し、やっと現れたと思ったらライオンの目の前で警察に連れていかれるなど、さんざんヒロトの人生に混乱を寄越してきた愛生。ですが、ヒロトはそんな愛生の姿を見つけると、しおらしく会釈をします。
この会釈に始まり、愛生とヒロトという姉弟の関係性の再構築というか、あっという間に昔の関係性に戻っていくことを表現した自転車の2人乗りのシーンは美しかったね。会話をするのは何十年ぶりだし、そもそも子どものころもそんなに長く一緒に暮らしたわけでもないし、愛生にすごく大変なことがあったのはヒロトもわかってるけど、愛生はヒロトの記憶のままのおてんば娘としてそこに存在している。何も変わっていない。いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえずそのことに安心する。どうあれ愛生は一度は息子を「捨てた」わけですから、ヒロトには愛生とライオンを会わせないという選択肢もあったはずですが、このシーンによってごく自然に愛生はライオンのもとへと導かれていくことになります。
一方で愛生に対し「怖いお姉ちゃん」という印象しか残っていなかったみっくんは、怯え切っています。夕食の食卓を囲んでも、愛生と目を合わせようともしない。そんなみっくんに、愛生は「美路人はカレー? よかったらからあげ食べる?」と、からあげを1つ差し出しますが、カレーの入った器に無造作にからあげを放り込まれたみっくんはパニックを起こしそうになります。
無造作なんだよな。港での柳楽優弥の会釈の無造作っぷりもすごかったけど、このときの尾野真千子の「美路人はカレー? よかったらからあげ食べる?」というセリフ、口に何か食べ物が残ったまましゃべってるんです。すごいことをするなと思うわけです。相手に気を使っていたら絶対にやらない「食べながらしゃべる」という行為を見せることで、「あなたには遠慮をしていない」「家族である」という愛生のみっくんに対するメッセージを表現している。ト書きかアドリブか知りませんが、こういうお芝居に痺れるわけです。