ハードな練習にも愚痴をこぼすことなく、ミュージカル女優として目覚ましい成長を見せていた神田沙也加さんですが、稽古の休憩中に「自分の両親が有名人だったから、この役に選んでくれたんじゃないですか?」と宮本亜門に尋ねてきたそうです。「違うよ、君がいちばん素晴らしかったからだよ」と答えても、なかなか信じなかったとのことです。

 豊かな才能に恵まれ、かつ努力家でもある一方、自己評価が低く、非常にナイーヴな心の持ち主だったことがうかがえます。

才能に恵まれた人の生きづらさ

 アナ役に選ばれた際、神田沙也加さんは「良くも悪くも情熱的で、少し無鉄砲なところが似てるかな」と自分とアナとの共通点を語っていました。考えるよりも、先に行動してしまう。明るい天真爛漫キャラゆえに、傷ついてしまうこともある。そんなアナ役に、神田沙也加さんはぴったりでした。

 物語の序盤を飾る「生まれてはじめて」は、神田沙也加さんの伸びやかな歌声が楽しめるナンバーです。「生まれてはじめて 音楽にのり 生まれてはじめて 踊り明かすの」という初めてパーティーに参加するアナ王女の喜びを、はつらつと歌い上げています。両親とは異なるミュージカルの世界に飛び込み、自分の居場所を見出した神田沙也加さん自身の喜びが伝わってくるようです。

 ミュージカル女優として未来を嘱望されながら、急逝したことが本当に惜しまれます。キャリアを積み、充分に実績を残しながらも、自分に厳しすぎ、自己評価が低いままだったのでしょうか。10代の少女のまま、ナイーヴな心を持ち続けていたのかもしれません。

 大ヒットした「レット・イット・ゴー」の日本語歌詞には「ありのままの姿見せ」「自分を好きになって」とありますが、ありのままの自分を受け入れ、好きになることは、才能があり、繊細な人ほど容易ではないのかもしれません。今夜聴く『アナ雪』のおなじみのナンバーは、以前とは違った重みを感じることになりそうです。