その人は、人間的にも実に素晴らしく、知らない人ばかりの現場でも、私が仕事をしやすいようにと手配してくれたのだ。どんな業種の仕事であっても、大切なのは人間関係だと思う。私の場合はどんなことがあっても書き続けてきたお陰で、多くの人と出会うことができ、人間関係が広がっていったのだ。
デビューまで十数年かかった。未来に何の保証もない努力を続けていると、「こんなことを続けていてもどうせ無駄だ」という思いが嫌でも湧いてくる。だけど、私は筆を折らなかった。小説家になろう、そしてそれを映画化にしよう。その思いだけで約25年間書き続けてきたのだ。
もうすぐ、その夢が叶うところまでやってきた。
私には、目立ちたいとか有名になりたいとかいう思いが一切ない。それはあくまで、自分が書いた作品を世に広めるための手段でしかないのだ。はっきりいって、今のまま食べていければ十分なのだが、生きていく上で、これくらいの財だけは残そうという目標があって、それまでは誰よりも働き続けるつもりだ。
物欲もなければ、質素な生活も気にならない。ただ地味にものづくりを続けたおかげでたどり着いた一瞬の輝ける場所。私はそれを愛しているのだと思う。
物語は唯一無二でなくてはならない。誰かの物真似ではつまらない。その唯一無二が今、『インフォーマ -闇を生きる獣たち-』として爆発していることを、私はひしひしと感じることができている。
「続編をやりましょう!」という声がいつかかっても大丈夫なように、今、次の作品を必死に書いている。十数年前、とにかく本を出したくて出版社を回ったのが、それらが嘘みたいに感じることができるところくらいまでには来ることができた。売れてるとか売れていないではなく、何の保証もなかった未来に、仕事ができる場所を作れたのだ。作品作りに楽なんてことは微塵もない。苦悩の中で生み出し続けてくるのだ。すまないが、私が見ているのは続編ではない。まだまだ、その先を見ている。