「いつ死んでもかまわない」
オートレースの世界を舞台にしたドキュメンタリー映画『オートレーサー森且行 約束のオーバル 劇場版』の中で、レースに挑む森且行は真顔でそう語る。
死を意識しながら、自分の職場へと赴く森且行。今の日本に、そんな覚悟で仕事に取り組む人はどれだけいるだろうか。人気アイドルグループ「SMAP」のメンバーでありながら、1996年に芸能界を辞め、オートレーサーに転身。2020年11月、実力日本一のレーサーを決める「日本選手権」で初優勝を果たすも、翌年1月にレース中の落車事故により、腰椎破裂骨折、骨盤骨折の重傷を負う。一生車椅子生活になってもおかしくない状況だった。
11月17日に放映されたドキュメンタリー番組『情熱大陸』(TBS系)では、大怪我を負った森且行が復帰から再び日本一を目指す姿が伝えられた。今回のドキュメンタリー映画では、彼がなぜそこまでオートレースの世界にこだわるのかを、より深掘りし、森且行の人間像に迫っている。
森且行が「SMAP」を脱退し、オートレーサーになった理由
オートレースは「オーバル」と呼ばれる楕円形のサーキットを、最高時速150kmで競い、コーナーを激しく攻め合うことから「走る格闘技」とも称されている。競馬、競艇、競輪とある国内の公営ギャンブルの中では、最もマニアックな競技だろう。
多くの人が疑問に思ったはずだ。なぜ、大ブレイク寸前だった「SMAP」を脱退し、危険なオートレースの世界へと挑戦したのか。今も元メンバーたちとは連絡を取り合うなど、友好関係が続いているにもかかわらずだ。「オートレーサーになるのが子どもの頃からの夢だった」と森且行は芸能界引退時に語っていたが、彼がオートレースに憧れるようになった理由が本作では明かされている。
森且行はひとつ年上の兄・久典と非常に仲がいい。2人して小さな公園に向かう場面がある。この公園で幼き日の兄弟は自転車に乗って、オートレースごっこに夢中になっていた。当時、兄弟の実家には両親がおらず、親戚の家を転々としていたと明かす。そんな兄弟にとって、オートレース場は特別な場所だった。父親や兄と一緒にレースを観戦していた森且行の目には、カラフルなレースウェアを着たレーサーたちが『ゴレンジャー』のようなスーパーヒーローに映ったという。森且行にとってオートレースは、家族で過ごした幸せな記憶、心をときめかした原体験の場所だった。