第6話も同様に、軽い事件とともに能力者・鹿乃子の苦悩が語られていました。鹿乃子は他人の嘘を見抜いたことからその人を犯罪者と決めつけ、それが冤罪を生む可能性に思い至り「嘘を聞き分けることができる私だからこそ、見えないものがある」と悩んでいました。
今回は、その鹿乃子が「嘘が聞き分けられなくなったら」という不安に苛まれます。
弁当トラブルで誰も嘘をついていなかったことを聞き分けた鹿乃子、その後、町を歩いていても、そこらへんの人からまったく嘘が聞こえてきません。
初めてこの町に来たとき、この往来は嘘にあふれていました。「今夜はすき焼きだ」と自慢するご婦人、「これはどこよりも安い」と言い張る質屋、「お嬢さん、羽織がほつれているよ」と言い寄ってくるおばあさん、みんなが嘘をついていた。今日も同じようなことを言っているのに、そのひとつにも嘘がない。
鹿乃子は、自分が能力を失ってしまったのではないかと青ざめてしまいます。
もともと、鹿乃子にとって嘘を聞き分ける能力は忌まわしいものでした。その能力は周囲から気味悪がられ、生まれ育った山村を追われた鹿乃子。しかし、この町にきて左右馬に出会ったことで、その能力が誰かの役に立つことを知り、左右馬に受け入れられることで、ようやく自分自身もその能力の存在を受け入れることができた。
嘘が聞き分けられなくなったら、自分は役立たずになってしまうのではないか。左右馬とも別れなければならないのではないか。この町にいられなくなってしまうのではないか。そしてそれ以上に、嘘が聞き分けられなくなったとき、鹿乃子には人を信じる方法がわかりません。嘘か本当かわからないとき、どうやって人を信じたらいいのか。なぜ、左右馬は自分の言うことを嘘だと思わないのか。その問いに対し、左右馬はこう答えるのでした。
「どんなに聞いても嘘か本当かわからなかったら、何かを信じて、傷つくのを覚悟して飛び込んでみなきゃ始まらないでしょ」