続く第8回で、結が帰宅する場面が印象的だ。居間の床に座り、救急箱をいじっている聖人が、帰ってきた結をちらっと見る。聖人は「おかえり、な、なさい」とぎこちなくつぶやくしかない。このつぶやきが、チャーミングな仏頂面俳優である北村有起哉の慎ましい見せ場になっているのがたまらない。

◆不変の顔スタイルを洗練

『おむすび』© NHK
 ぎこちないんだけれど、台詞としてつぶだつ。ほとんど無表情に近い仏頂面が、実に複雑で豊かな感情をぐるぐる醸す。ほんといいんだよなぁ、北村有起哉の顔って。

 映画俳優としての初期出演作『のど自慢』(1999年)で、ちょい役高校生を演じていた坊主頭の頃から、まるで変わってない。いつ、どこでも、不変の顔スタイルを洗練させてきた。

 表情ばかりが演技の華ではないことも教えてくれる。顔そのものが、画面の基礎になるみたいな。『おむすび』を見るということは、北村有起哉のこの顔を毎朝楽しみにすることとイコールではないか。

◆激似でキャラ立ちする名場面

「おむすび、恋をする」と題された第7週で、結は鬼怒川のカッパ、あるいは福西のヨン様こと、他校の球児・四ツ木翔也(佐野勇斗)に恋をする。甲子園出場を目指す翔也のため、書道とギャル活動に加えて弁当作りに励む。

 するとやっぱり聖人が心配し始める。弁当を渡す相手が恋人なのかどうかと、内心ぐるぐるスイッチがオンになる。第31回、聖人による面白場面が描写される。

 台所にいる結に対して聖人は居間の扇風機を背にスイカを食べている。弁当が渡されるのが彼氏か気になる聖人が、口をはさもうとして、妻・米田愛子(麻生久美子)にとめられる。ぎこちない動きで後ずさるとき、なんともまが抜けた調子で扇風機に尻をぶつける。

 その顔と所在ない動作が、『古畑任三郎シリーズ』(フジテレビ、1994年)の今泉慎太郎(西村雅彦)と激似でキャラ立ちする名場面だ。

◆神戸編でも北村有起哉尽くし