もっとも、日本版の全ての放送回を通じて、そのような表現に到達したミュージシャンは、いまのところいません。
ともあれ、かぶり物が悪目立ちしてしまったオザケンですが、むしろそのおかげで彼の器用な手さばきと知性の切れ味を再認識できた面はありました。ハッとさせられる瞬間が、いくつもありました。それは、美大でデザインの講義を受けているような感覚だったと言えるのかもしれません。
同時に、その高度に洗練された表現ゆえに、いまの日本の音楽に決定的に欠けているものも浮き彫りにしたと思うのです。
<文/石黒隆之>
【石黒隆之】
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4