というのも、演奏や曲のアレンジ自体はとても斬新だったからです。メッセージや被り物に象徴される最近の思想性を取っ払って聴けば(それは邪道な楽しみ方なのかもしれないのですが)、これまでの『tiny desk concerts JAPAN』(NHK)のなかで、最も独創性に富んだものでした。

小沢健二・スチャダラパー『今夜はブギー・バック』EMIミュージック・ジャパン
小沢健二・スチャダラパー『今夜はブギー・バック』EMIミュージック・ジャパン
『ラブリー』や『今夜はブギー・バック』などの90年代を代表する大ヒット曲が、ハープや木琴を交えて、和製カリプソといったサウンドで蘇(よみがえ)る。豊かな発想を軽やかに実現させるミュージシャンシップ。その一点だけを取っても、とても「90年代で時が止まっている」などとは言えません。小沢健二は現役のミュージシャンなのだということを雄弁に物語っていました。

◆アメリカの本家と比べると日本版は音がこじんまりで小ぎれい

 しかし、同時に筆者には物足りなく感じる部分もありました。アメリカの本家『Tiny Desk Concerts』の長年のファンからすると、日本版はどうしても音がこじんまりと、そして小ぎれいに聞こえてしまうからです。

 もともと『Tiny Desk Concerts』はアメリカの公共放送ラジオ放送のオフィスの一角で、「親密なコンサート」をコンセプトにスタートしました。レコーディングで製品化された整った音でもなく、大きな会場で大音量で圧倒するのでもなく、歌声や楽器が持つ本来の音を再現することで音楽の“親密さ”を復活させようという試みなのです。

 その中で、従来ならば除去されてしまったであろう息遣いや、楽器演奏の合間のちょっとした衣擦れのような微音が漏れ伝わってくる臨場感が新鮮だったのです。

 ところが、この番組の根幹である、楽器の生音の荒々しさだとか、フレーズを弾く前の助走にあたるささくれのようなノイズが、日本のミュージシャンからは聞こえてこない。同じ形態、演出で生演奏を放送しているはずなのに、全く違うものに聞こえるのです。