それなのにプロデューサーのジョニーといえば、いつも満面な笑顔で人を不安にさせてくれるのだ。もちろん、今回の撮影でもそうであった。

 今夜放送の第3話の見所といえば、なんといってもタイの刑務所でのシーンだろう。三島はただそこに存在するだけで、名探偵コナン並みにハプニングに見舞われる。そんな星のもとに生まれた男の本領が、第3話でも遺憾なく発揮されているのだ。その舞台が、屈強な男たちがくすぶる刑務所なのである。すまないが、面白いに決まっているではないか。

 あれは、バンコクでの長期ロケの只中、来週から刑務所の撮影という日だった。その日の撮影が終わり、ジョニーとムエイタイの試合でも観に行こうかと考えていると、深刻な表情を顔面に貼り付けたジョニーが近寄ってきた。

「どないしてん~? 嘘くさい顔を作りやがって~。お前の仕事はお芝居ちゃうぞ~。ムエイタイでも観に行こうぜ~」

 そう言っても、ジョニーはくすりとも笑わずに「ちょっと来てもらっていいですか」と、人がいない場所へと誘ってきた。

 6月の夕暮れ時というのに、気温は40度近くあった。日本ではまず考えられない。容赦ない太陽の陽射しを浴びながら、ベンチに並んで腰掛け、ジョニーに尋ねた。

「どないしてん?」

 ジョニーは答えた。

「実は来週からの刑務所での撮影が厳しい状況になってきたんです……」

 冒頭でも述べたように、刑務所でのシーンは必要不可欠であった。それが今になって、厳しくなってきたというのだ。

 おしゃべりなジョニーのことである。現状、そのことを誰が知っているのか尋ねた。何事にもアクシデントはつきものである。珍しいことではない。問題なのは動揺や不安の伝播することである。

「はい!まだ沖田さんにしか話してません!」

 ジョニーのその返答を聞き、最低でも20人には知れわたっているであろうことを私は瞬時に察知した。

「よし、わかった。オレは3日あれば脚本も大工事できる。心配はいらん。とにかくみんなを動揺させるな」