ここで描かれているのは、教育というものが潜在的に抱えている暴力性そのものだ。吉本の巧妙な手口に長男の慎一(神木隆之介)は不信感を抱き、吉本の正体を調べ始める。やがて、ドラマ後半は、沼田家の崩壊と、慎一と吉本の戦いに焦点が移っていく。
悪役として振る舞うことで教育を行う教師、そして謎の人間が訪れることで家族が崩壊し再生するというモチーフは、脚本家・遊川和彦の『女王の教室』と『家政婦のミタ』(ともに日本テレビ)を連想させる。
本作が放送されているフジテレビ水曜10時枠はドラマ新設枠で、裏番組には日本テレビの水曜ドラマ枠がある。おそらく大ヒットドラマ『家政婦のミタ』を生み出したドラマ枠に対して、あえて似た題材をぶつけてきたのだろう。
ストーリーはミステリー形式で、次から次に予測不能な行動を取る吉本の正体が最大の謎となっていく。
では、吉本荒野とは何者だったのか?
『家族ゲーム』第9話で描かれた吉本の過去とは?
第9話、ついに吉本の過去が描かれる。吉本の本名は田子雄大。かつては善良な中学教師だったが、教え子の真田宗多(吉井一肇)を死なせてしまったことから、真田が自殺する原因となった「吉本荒野」の名を用いて、家庭教師として生きるようになる。
本当の吉本荒野(忍成修吾)は、教頭を叔父に持つ新任教師。表向きは生徒にも人気の好青年だが、裏では同僚の教師を配下にして、ストレス解消のためにやりたい放題をしていて、真田に対しては同僚の教師を従えて暴力を振るっていた。
作中では、吉本の非道な性格の理由は描かれずに、延々と凶悪な姿が描かれるが、そこには不快感と同時に圧倒的な悪の魅力がある。この凶悪な吉本を田子(櫻井翔)が真似していたとわかることで、今までの吉本の空虚で軽い台詞回しと行動の裏に見え隠れする熱い部分に説得力が与えられる。
『家族ゲーム』悪意の連鎖からどう抜け出すのか?
吉本=田子の、正しいことを為すために悪に身を落とすヒーロー観は、本作の脚本家・武藤将吾が担当したドラマ『ジョーカー 許されざる捜査官』(フジテレビ系)を彷彿とさせる。