◆彼が去ってぼうぜんとしていたら戻ってきたが

タクシーを降りると、彼は麻里奈さんの手を引いて2階の部屋の前まで一緒に来てくれたそう。

「そしたら彼が唐突に『じゃあ、お大事にしてください』と笑顔のまま立ち去ってしまったので、あまりの拍子抜け感に思わず『えっ?』と声をだしちゃいましたね」

その「えっ?」には「当然連絡先を交換するものと思っていたのに、名刺もくれないままここでお別れなんて」という意味が込められていました。

「しばらく呆然(ぼうぜん)としていたのですが、腰の痛さで我に返って、仕方がないので鍵を開けて部屋に入ろうとしていたら…」

階段を駆け上がってくる音が聞こえてきて、彼がハッとした表情で戻ってきたそう。

「『ごめんなさい!そんな状態じゃ靴も脱げませんよね。手伝いますよ』と気を利かせてくれて嬉しかったのですが、そういうことじゃないんだよなと少しモゴモゴしちゃって」

すると彼が『あ、知らない男を玄関に入れるなんて怖いですよね。大丈夫ですよ、ここ開けっぱなしにしておきましょう』と強引にドアを全開にしたので、麻里奈さんは血の気が引きました。