作家、詩人、作詞家として数多くの作品を手掛けている高橋久美子さん。精力的に創作活動をするなか、1か月おきに故郷の愛媛と東京を行き来する二拠点生活を送り、作家と農家との二足の草鞋も履いています。
そんな高橋さんの軸は「生活」にあり、暮らしを中心につづった『暮らしっく』を上梓しました。誰にでもある暮らしという時間を、誰よりも大切にしてきた高橋さん。二拠点生活のことから、暮らしのちょっとした楽しみ方について教えてもらいました。
◆地元・愛媛の農家を本業に。二拠点生活を始めた理由
――昨年から、高橋さんは地元・愛媛と東京での二拠点生活を送るようになったそうで、どのようなことがきっかけで、その生活を決断したのでしょうか?
高橋さん(以下:高橋):もともと愛媛にはよく帰っていて、農業の手伝いをしていたんですが、帰るたびにどんどん耕作放棄地が増えていくのが気になっていました。どこの地方も抱く悩みだと思うのですが、畑もどんどん荒れていって、自分が見てきた景色と変わっていってしまって。
でも、そこでできた作物がすごくおいしいっていうのを知っていましたし、コロナの間に土いじりを東京の家の庭でやってみて、自分にはこういう時間が必要だっていうのがわかってきて、それなら思いきって愛媛で農業をしようと思ったんです。
私のような創作活動をしている人は農作業が向いているとも思います。自分の手で作物を作ることは、まさに作品作りですし、クリエイティブの根源のような気もします。
――二拠点生活の前後で、考え方や価値観が変わったのではないでしょうか。
高橋:今はスマホで調べたら大体答えが出てしまう世の中ですが、相手が自然だとそれが通用しません。収穫間際で天候によってダメになることもけっこうあって、こんなに頑張ったのに報われないんだと思うこともあります。でも、だからこそ収穫できたときの喜びはすごく大きいですね。自然に振り回されることで頭だけでなく実感として分かることが沢山あります。これは東京にいたらわからないことでした。