◆ありきたりな演技をやらなかった“ある場面”

 第1話ラストで美羽から妊娠を告げられ、自分の子ではないとは知らない宏樹だが、第2話冒頭、「お疲れ様でした」とぼそりつぶやいて、ひとりでオフィスに残る場面がある。

 上司と部下にはさまれ、彼の心は悲鳴をあげている。時計を2度見る。視線をそらすタイミングが完璧だ。激務のストレスから深いため息でもつくのかと思ったら、田中圭がそんなありきたりな演技はやらない。

 ため息寸前のところでぱっと机上を整理する。この短いワンシーンでの田中の控えめでいてつややかな演技には心動かされる。「あなたの子よ」と美羽からいわれた一言を思い出す宏樹の虚(うつろ)な表情がビルの窓ガラスに映る。なかば憐れみだが、宏樹にもそりゃ明日はあるよなぁと。本作の田中圭は、とても複雑な「明日があるさ」を表現している。

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】

音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu