さらに細かい共通点をひとつあげるなら、陰湿な夫に変貌してからの宏樹の肩に注目してみる。美羽が会社まで封筒を届けた場面で、宏樹が着るスーツの右肩の端っこあたりがくぼんでいる。田中圭がスーツを着るとこうして右肩がなぜだかくぼむ(スーツのフィット感の問題でしかないのだが)。『おっさんずラブ』の春田はあえてくぼみを作っているのかというくらいくぼんでいた。
宏樹と春田はまったくベクトルが逆方向のキャラクターではあるのだが、このくぼみが同一人物(田中圭)が演じていることを証明するスポットみたいな役割になっていると思う。
◆「明日があるさ」的な俳優
作品間の垣根をこえて、ぼくらが田中圭を語るとき、こうした微細な類似がたくさん見つかる。ある種、隠れミッキー的な側面がある。その類似の読解は人それぞれではあるけど、物語レベルをこえて類似を見つける豊かな楽しみを与えてくれる人なのである。
今まで一番驚いた類似のキーワードは、「Tomorrow」。2018年公開、ジョン・ウー監督の『マンハント』に出演した田中は、苦悩する研究者・北川正樹役を少ない回想場面の中で演じた。ラストに「A Better Tomorrow」という重要なセリフが用意されている(これはウー監督の代表作である『男たちの挽歌』(1986年)の英語タイトルへのセルフオマージュ)。
あぁ、そうかと筆者は膝をうった。実際にセリフを言ったのは主演の福山雅治だが、このセリフが意味する「明日があるさ」とは、俳優としての田中圭の特性を端的に言い当てたものなのだなと勝手に理解した。あるいは、田中初の冠番組『田中圭の俳優ホン打ち』(フジテレビ)で彼がオーナー兼店長を演じた店名が「Tomorrow」だった。
彼はキャリアを通じて「明日があるさ」的な役割を担ってきたところがある。硬柔問わず、どんな作品どんな役柄の田中圭もいつも見る者を前向きにさせてくれる。はるたん役はその典型だった。とすると、毎日妻を叱責してばかりいる陰湿夫である宏樹役にも実は「明日があるさ」的なものがあるんじゃないか。