『光る君へ』では、正義のヒーロー・道長と対立するものはすべて悪役となるのですが、「天の怒り」とは……。それこそ前回のドラマの三条天皇のセリフのように「そうきたか」と少し苦笑してしまいました。

 ちなみに道長が「天は三条天皇を責めておられる」といって、譲位を迫ったのは史実です。長和3年(1014年)2月に内裏が焼失、さらにその数日後には数多くの貴重な金銀・宝物が収められた内蔵寮(くらりょう)不動倉(ふどうそう)、掃部寮(かもんりょう)という建物まで炎上する事件が起きたからです。

 まぁ、三条天皇の先代の一条天皇(塩野瑛久さん)や、それ以前の帝の御代から内裏が燃え落ちるのは、いわば「日常茶飯事」です。しかし、三条天皇を一日も早く退位させたい道長は火事を利用し、それを「天の怒り」だと言い張って天皇に譲位を迫ったのですね。そのあまりに不遜な態度を実資は「愚なり」と評し、自身の日記『小右記』に記したほどでした。しかし、史実の道長ならともかく、ドラマの道長がどのような顔で、天皇批判を展開するのかが見ものだと感じてしまいます。

 結局、相次ぐ火事や道長からの突き上げ――たとえば三条天皇が希望した有能な者ではなく、無能な人物をあえて側近に推薦する嫌がらせの数々によって、三条天皇は長和3年2月の内裏焼失から1カ月も立たないうちに片目が見えなくなり、片耳も聞こえなくなるという体調不良に悩まされたのでした。

 この年、道長の日記(『御堂関白記』)はなぜか残されておらず、あまりに三条天皇を責めさいなむ様子を描いたページは自身の判断で破り捨てることにしたか、あるいは子孫たちがそのように取り計らったのかもしれません。