ハリウッドスターの仲間入りを果たしたトム・クルーズは、その後はダスティン・ホフマンと共演した『レインマン』(1988年)、オリバー・ストーン監督のベトナム戦争もの『7月4日に生まれて』(1989年)などの社会派ドラマに出演し、俳優としての評価を高めていきます。そして、『ミッション:インポッシブル』(1996年)以降はアクション俳優&プロデューサーとして、唯一無二のビッグネームになっていきます。

 トム・クルーズは『トップガン』の成功後、ハリウッドセレブの世界とは異なる、もうひとつ別の世界にも足を踏み入れます。俳優デビュー間もない頃は、TVドラマ『大草原の小さな家』の子役で有名だったメリッサ・ギルバートと付き合っていたトム・クルーズですが、1987年に6歳年上の女優ミミ・ロジャースと結婚。彼女がカルト教団「サイエントロジー」の信者だったことから、トムも入信することになります。

 ミミ・ロジャースとは3年で離婚しますが、トムはその後もサイエントロジストのままです。サイエントロジー側は、トムのことを史上最高の広告塔として好待遇でもてなし続けています。

 トムにしてみれば、夢を叶えて大スターにはなったものの、信頼できる人物は周囲に少なく、がっつりと信じられる対象が欲しかったんじゃないかと思います。トム自身はサイエントロジーと出会ったことで失読症を克服できたと語っていますが、本当にトムが失読症だったのかを怪しむ声も一部にあります。

 新興宗教の信者に、芸能人やスポーツ選手が多いのは、自分の人気がいつまで続くか分からない恐怖心があるからでしょう。新興宗教はそうした人に巧みに近づきます。トムも自分が大スターへの階段をのぼり詰めていく快感に酔いしれながら、階段から転げ落ちていく恐怖も同時に感じていたんだと思います。酒やドラッグの代わりに、トムが選んだのが宗教だったわけです。

 成功という名の果実がもたらす甘い甘い陶酔感と、いつ底が抜けて谷間に堕ちていくか分からないというヒリヒリする恐怖感。その両方に耐えられたものだけが、大スターでいられるのかもしれません。