「私には千里眼の能力がある」

 興玉さんたちに問い詰められたミチはそう答えます。これが、今回のフリになるわけです。見ているほうは、ミチが言ってる「千里眼の能力」がどんな形で、どう科学的な裏付けをされて解決されるのか。そういう期待を抱くことになる。

 それにしても、全然わからないんですよね。これから謎解きが始まるという段階で、あまりにもわからない。とりあえず興玉さんの洞察力や推理力、豊富な知識によって解決されるであろうという予感だけがある。ここで、「全然わからない謎vs優秀な探偵である興玉さん」という構図が出来上がる。この謎のわからなさ具合は過去最強ですので、華麗な解決にがぜん期待してしまうわけです。

 ところが、今回はこのミステリーのフリがフリのまま形を変えていくことになります。

 ミチの娘である小学生・ミコト(諸林めい)が本当に千里眼の能力を持っていて、爆弾の場所を見抜いてしまう。諸林めいという子役の芝居もすごくて、最初は無垢かつ無知で、事件解決においては足手まといになりそうな雰囲気で登場しているのに、どうやら千里眼が本当にあるらしいとほのめかされるあたりから、芝居が変わっていくんです。能力を発揮しながら「このままだと、大勢死んじゃう」とつぶやくあたりなど、アニメ映画『AKIRA』(88)のシワシワ子ども・キヨコによる名セリフ「人がいっぱい死ぬわ」を想起させます。

 そして、興玉さんの「イチキシマヒメノミコトを、保護しました」というセリフで、確定させるわけです。『全領域異常解決室』には、そういうものがリアルに登場する。この少女は千里眼の能力を持つホンモノの能力者で、人間ではなく「イチキシマヒメノミコト」である。興玉さんもそれを知っているということは、同類である。一気に、アンチオカルトなリアル志向の刑事ドラマから日本古来の神話をモチーフとしたファンタジーへと転換するのです。

 そこからはもう、流れるような展開です。デリバリー男と、ここまでヒルコであるとミスリードされてきた巫女ギャル(福本莉子)も興玉さんたちの仲間で、みんな神である。神は古来より、人間に紛れて生活している。そうして謎事件を「丸く収める」ことを仕事にしてきたが、興玉さんたちにとっても“謎の神”であるヒルコが現れたことで、「神vs神」の戦争が起こっている。そういう設定が一気に明かされます。