10月27日に投開票が行われた衆議院総選挙は、苦戦が伝えられていた自民党が議席を50以上減らす惨敗を喫し、代わって立憲民主党が躍進。与党が過半数を割り、政局は混乱を極めているが、ここ近年の総選挙で特徴的なのが、選挙戦の様相の変化だ。特に今回は2022年の安倍晋三氏襲撃事件以降初の国政選挙だったため、警備の厳重さは並々ならぬものがあった。
「安倍首相が凶弾に斃(たお)れる痛恨のミスを犯した警察にとっても、今回の選挙はメンツをかけた戦い。街頭演説の名所はまさに厳戒態勢で、警備レベルは従来の選挙から一気に跳ね上がりました。一帯はフェンスでがっちり囲われ、荷物チェックや金属探知機のチェックも実施。演説の数時間前から大量の警察官が張り込み、怪しげな人間にはバンバン職質をかけていて、気軽に演説を聞ける雰囲気ではありません。警察犬も出動して、植え込みやマンホールをくまなくチェック。緩衝地帯が設けられて聴衆と距離があるため、演説では第一声で『遠いところから失礼します』と言うのがお決まりでした」(フリーのジャーナリスト)
これまでは「高いところから失礼します」が定番だったが、高くて遠くなった候補者たち。警備は注目度が高い候補者に集中するので、当落線上の与党議員は難しい選挙戦略を強いられた。
「政界には『握った手の数しか票は出ない』という格言があり、田中角栄氏が“子分”たちに『1日5000人と握手しろ』とハッパをかけていたのは有名な話。今回は閣僚級でもドブ板選挙の必要がありましたが、警備は与党議員に手厚くなるので、街頭で握手ひとつするのも難しかった。身の安全のためとはいえ、有権者と距離ができれば浮動票は減りますし、『警備が邪魔だ』と反発する人も出てくる。街頭演説も安全確保のため直前までスケジュールがハッキリしないケースも多かった。裏金問題の渦中の議員の中には、街頭だとヤジられるばかりなので、個人演説会で票を稼ぐ戦術を取った人もいました」(同上)