米国では市民が政治的スタンスをはっきりさせることが一般的だ。民主党支持なのか、共和党支持なのか、人前ではっきりと話す。考えを持っていない方が奇異に見られることもある。映画俳優や歌手といった人気商売のタレントであっても、政治的な考えを口にし、選挙で誰を支持するのかを公にする。

 こうした社会の中で、言論界をリードする新聞社が「中立」を表明するのは「弱腰」「ジャーナリズムの衰退」という意味で解釈される。

 両オーナーの判断を受けてロサンゼルス・タイムズ、ワシントン・ポストでは、ともに論説、編集の幹部の辞任が相次いでいる。また、読者も反発し、解約が殺到した。ワシントン・ポストは少なくとも25万人が電子版の購読をキャンセルしたという。

 ジャーナリズムの経験のないビジネスマンがオーナーに座れば、こうした判断に傾くのも当然なのかもしれないが、ジャーナリズムの観点からすれば、そういうオーナーの存在は業界の危機そのものである。

 文化、グルメから政治経済まで気軽に読める雑誌としてニューヨーカーに人気の週刊誌「ニューヨーク・マガジン」は10月31日号で、メディアの現状について特集した。新聞、雑誌、テレビの第一線で活躍する57人にインタビューし、「極限状態」にあるニュースメディアの現状について伝えたが、現在の状況を作った要因の1つに「無責任、無能な経営者たち」があると指摘し、パトリック・スーン・シャン氏らを批判した。

 米国では1800年代の新聞草創期のころには、ニュースを扱う紙面と社説など意見を載せる紙面の両方で「党派色」が強かった。

 20世紀以降、ニュースの紙面では中立性の高い記事が中心となってきたが、オピニオンの紙面では政治的スタンスをはっきりと示す社が依然として多く、同じ新聞でも機能が二分されている、といってもおかしくない。

 そんな米国の新聞業界でも、インターネットが発展し広告収入がネットメディアに奪われる状況が進む中で、選挙報道が変化してきた。