戦闘シーンがほとんどない異色の「大河」である本作ですが、平為賢が目立つ形で登場したということは、寛仁3年(1019年)3月末から4月にかけ、壱岐(現在の長崎県)・対馬(現在の島根県)を襲い、さらに九州にも中国大陸からの海賊が侵攻した事件のことは、最終回前の一大イベントとして描くつもりなのでしょう。
その女真族の海賊による日本への軍事侵攻は「刀伊の入寇」と呼ばれる大事件なのですが、この当時、京都を離れ、大宰権帥として大宰府(現在の福岡県)に赴いていた藤原隆家が総指揮官となって、平為賢などの武士も参戦、刀伊(女真族)の追い返しに成功しています(女真族とは、後に中国を平定し、「清」という大帝国を樹立することになるツングース系遊牧民族です)。
藤原隆家は、もともと眼病の治療のため、名医がいると噂の大宰府への異動を熱心に希望し、道長の反対を押し切ったといわれています(かつてはあれだけ京都から離れることを亡き兄・伊周と共にイヤがっていたのに)。いくら病身とはいえ、もともとは「カッ」となって花山天皇を襲撃してしまったように血が熱い御仁ですから、こういう不測の事態解決にはもってこいだったのでしょう。
最近、ドラマの中で異色の存在感を放つ双寿丸(伊藤健太郎さん)も、平為賢の配下ですから、刀伊追撃の際に大活躍し、『光る君へ』終盤を彩ってくれそうです。まぁ、まひろこと紫式部の娘・賢子(南沙良さん)が恋に奔放な女性でも、武士の誰かと結ばれたというような逸話は聞かないので、あっけなく大宰府で戦死してしまいそうな気もしますが……。
ちなみに「大宰府」という表記については、中世までは「大」宰府、それ以降は「太」宰府とするという取り決めに今回は従ってみました。現在の地名表記のように「太宰府」とする用例が増えるのは、中世以降の話なのだそうです。