第1話では悪魔的なモラハラっぷりを見せたヒロキ。その姿はこのレビューでも「世の中の『イヤな夫』像を丸めて煮しめて出来上がったようなクソ人間、言語道断、万死に値する、天誅を下すべき」などと評しておりましたが、人間は変わるものですね。赤ちゃんが産まれてからたった1カ月で、優しくて頼りがいがあって、どこに出しても恥ずかしくないイクメンへと変貌しました。仕事中も待ち受けにしている栞ちゃんの写真を眺めてニッコニコです。
プロレスの世界では「相手の力を最大限に引き出して、それ以上の力でそれを倒す」ことが美徳とされています。かの有名なアントニオ猪木の「風車の理論」と呼ばれる言説です。
今回の『わたしの宝物』では、それと同じことが行われているわけです。ヒロキとミワという夫婦の「幸せ家族生活」の「幸せ」を最大限に引き出している。たとえ“托卵”が行われていたとしても、もういいじゃないか、ヒロキならきっとミワさんと栞を幸せにしてくれるよ、そういう方向に振り切っている。
それ以上の力で、この「幸せ」を壊すためです。文字通り、一度は「死に体」となった冬月が初恋ピュアピュアパワーでもって、この家族に割り込んでくるわけです。
ヒロキはもちろん、栞の父親が冬月であることを知りません。冬月は、栞の存在すら知りません。すべてを知っているのはミワさんだけです。
このドラマは巧みな時制のコントロールによってミワさんの“托卵”が不可避であったことを説得力を持って語ったうえで、それぞれの「知ってる」「知らない」という情報量を操り、見る側に甚大なダメージを与えてやろうと手ぐすねを引いています。
いやぁ、悪趣味な作劇をするもんです。超楽しいね。
(文=どらまっ子AKIちゃん)