相変わらず仕事が忙しいヒロキですが、ミワさんも気付かない間にヒロキの中で大きな変化が起こっていました。
生まれる前はよくわかってなかった「父親」の自覚が芽生え、ミワさんに頼まれた名前についてはノートに何ページもびっしりメモを書き込むほど必死に考えたし、ミワさんに「あの約束破っていい? 父親やりたい」「今までごめん」とか言い出すし、同行できないと言っていたお宮参りにはわざわざ仕事を休んでミワさんの入院中の母親を連れてきてくれるし、挙句の果てには任されていた巨大プロジェクトのリーダーまで降りてしまいました。
そんなヒロキが赤ちゃんに付けた名前は「栞(しおり)」でした。ミワさんの母子手帳にいつも挟まっている栞、その名前には、ヒロキにとって赤ちゃんが人生の道しるべになったという意味も含んでいるそうです。
ヒロキは知らんけど、その母子手帳に挟まっていた栞は、ミワさんと冬月の大切な絆の証なのよね。皮肉なもんです。
そうして完全無欠の良きパパに生まれ変わったヒロキ。その変化を感じ取ったミワさんは、ヒロキが自分との出会いのきっかけになったハンカチを後生大事に持っていることも知り、ヒロキと生きていく決意を新たにします。
冬月との絆の証である栞を2人の思い出の図書館に戻すことにしたミワさん。栞ちゃんの1カ月検診を終えた帰り、図書館に立ち寄り、その栞を誰も開くことがないであろう図鑑に挟みます。これで、冬月と自分をつなぐものは何もなくなった。栞ちゃんと2人で外で待っているヒロキのもとへ戻ろうとしたそのとき、死んだはずの冬月がミワさんの目の前に現れるのでした。
「どうして……」
言葉を失ったミワさんをおもむろに抱き寄せる冬月。この人はまだ「ミワさんを迎えに来た王子様」という自覚がありますし、栞ちゃんの存在も知りませんので、その行動に迷いはありません。一方、ミワさんは頭が爆発しそうなほど混乱しているでしょうけれども、冬月のことはまだ好きだったりするようで、抱きしめられたまま涙を流すしかないのでした。