◆ネグレクト化していく母
「朝と晩、仏壇に向かって拝むのが母の日課となりました。口に出してお題目を唱えるので、いやでも耳に入ります。父は入信していませんでしたが、母が喜ぶからと、おばさんに誘われる信者の集いには付き添いとして足繁く通っていましたね」
佳子さんは次第に家に友だちを呼びにくくなり、治療と信仰活動で親が不在がちな家にもなった。かと思えば、信者仲間がお茶会的に集っている日もある。
佳子さんきょうだいの日ごろの食事は、レトルトと冷凍食品を多用するようになる。カレーやパスタなど簡単な料理は自分でできるようになるが、弁当が必要になったら自分でコンビニで調達したものを詰め替える、というライフハックを覚えたのもこのころだ。
肝心のがんは信仰によって消えるわけではなく、手術と抗がん剤治療を行った。その際もおばさんは信心を持ち出し『大先生がついていてくださるから大丈夫! 手術は大成功よ!』と、なぜか自信満々だったという。
信じるものは救われる、というヤツだろうか。
しかし当然ながら、世の中そう都合よくはいかない。
手術から5年後、母のがんは転移し再発した。佳子さんが22歳のときだ。
こうした経緯はまったくめずらしくない話であり、当然信仰とは関係ない。ところが信仰があるから大丈夫! と言っていたおばさんは引っ込みがつかなくなったのか、さらにキツい言葉を病身の母に投げかけてくる。
「『信仰が足りなかった』『お題目じゃなくて医療に頼るから……』とブツブツ言っていましたね。母はもともと気が弱い人だったので、その仏壇を拝みながら、いつ再発するかと怯える毎日を過ごしていました。それでこの結果だから、本当にかわいそうで」