筆者個人は、前述したような映画の中の沢田が傷つき疲れていて、それでも優しさを感じさせる様は、荻上監督が参照した20代~30代の頃の堂本剛はもちろん、「今」の堂本剛を重ねるところもあった。
例えば、2017年に突発性難聴を発症したために一時活動を休止し、復帰後も後遺症と向き合い続けており、その告白に勇気づけられたという人は多い。さらに、2024年はももいろクローバーZ・百田夏菜子と結婚、さらにSMILE-UP.を退所して個人事務所を設立するという、大きな転機を迎えている。
客観的に見てもつらい時期が続き、その大きな転機を経て後遺症を抱えながらも音楽活動を続けていく堂本剛の姿は、映画『まる』の劇中で本人の意思とは異なることで評価をされ続け、困惑をしつつも流されていた沢田が、「それでも」自身が本当に望んでいるアートへの思いを捨てきれない様ともシンクロしている。
特に、終盤にとあることを吐露しながら涙する沢田の姿に、やはり「今」の堂本剛の姿を重ね合わせる人はいるはずだ。
もちろん、堂本剛は自身のとてつもない努力と信念があってこそスターになったのは間違いなく、客観的にはたまたま描いただけにも思える○が評価される劇中の沢田とは根本的にプロセスは異なる。しかし、アイデンティティーや創作についての苦悩を抱える様からすれば両者はほぼ同じ人物に見えるし、この世に存在するとしか思えない沢田を体現した堂本剛を、心から称賛したくなったのだ。
◆主題歌にも浸りきってほしい
さらに堂本剛は映画『まる』の主演のみならず、主題歌の「街(movie ver.)」も担当している。こちらは2002年にリリースされた「街」を映画のために再レコーディングしたものだ。
堂本剛自身、今回の再レコーディングにおいて「楽曲そのものは僕自身が人のことが好きじゃなかった時期に書いた曲で、傷つけられたり傷ついたりもするけれど、自分の中にある痛みを忘れたくないなという想いが宿っているんです」などとコメントをしている。まさにその歌詞でその通りの想いが表れていること、それは『まる』の物語および主人公・沢田の心理にシンクロしていることがわかるだろう。