このため車との接触事故も多発している。ニューヨークでの2023年の電動自転車など車の事故での死者は30人。重傷者は400人近くにのぼる。
そんな電動自転車によるトラブルは事故だけではない。動力源であるリチウムイオン電池が充電中に発火し、アパート火災を引き起こし、ニューヨークの大きな社会問題となっている。
2023年にニューヨーク市内で発生したリチウムイオン電池による火災は267件にのぼり、18人が死亡した。火災の多くは、デリバリーサービスの労働者が自宅で「フランケンシュタイン・バッテリー」と呼ばれる粗悪な電池を充電したことが原因だとされている。
労働者たちは新しいリチウムイオン電池を購入するだけの経済的余裕はなく、低品質の中国製の電池を1個300~400ドルで購入し、使用していた。
事態を重く見たニューヨーク市当局と市議会は、米国では初となる電動自転車の安全確保のための法律を2023年9月に制定した。審査機関が定める安全基準を満たしていない電池と、それを搭載した車両の販売、リース、レンタルを禁止した。
市消防当局は、基準に満たない電池などを販売した275の店舗と25のオンライン業者を摘発し、1台あたり最大で2000ドルの罰金を課した。
また、自宅などの屋内での充電をなくすために公共団地などに屋外の電動自転車充電装置を設置した。
それでもリチウムイオン電池による火災は後を絶たない。2024年9月末時点での火災件数は2023年とほぼ同じペースの202件にのぼっている。
規制による効果があったかどうかは、評価が分かれるところだが、デリバリー労働者にとってみれば、規制によって安いリチウムイオン電池は手に入らなくなり、電動自転車の使い勝手が悪くなったことは確かだ。このため労働者は電気自転車からガソリン燃料の原動機付き自転車(モペット)に乗り換え始めた。ニューヨークでは現在、モペットが急速に増加し、新たな社会問題を引き起こしている。