いずれも『孤独のグルメ』とはあまりに毛色が違い過ぎる。ただ唯一共通点を見いだすなら、画面上に浮き上がる長身のたたずまいくらいだろうか。五郎が「腹が減った」とつぶやくとき、ポンポンポンという効果音とともカメラが引いて、引きの画面上に長身の松重がぽつんとひとりたたずむ。この超引きの絵がすぐあとに続く食事場面へとゆるく引き締めてくれるのだ。
◆焼き鳥が初出かと思いきや
ところで、『孤独のグルメ』で初めて画面に写った食べ物を記憶している視聴者はどのくらいいるだろう? Season1の第1話タイトルは「江東区門前仲町のやきとりと焼きめし」とある。ということは、焼き鳥が初出かと思いきや、これが違うのだ。
あくまでドラマ形式である本作では、まず得意先との商談場面から始まるのが基本。商談を済ませて、さぁて腹ごしらえだと思い立ってその街のちょっとした穴場的なご飯屋を探すという筋。
第1話の記念すべき舞台は門前仲町。五郎は学生以来だとモノローグで説明する。商談場所である喫茶店に入る直前、五郎は路地で落としたみかんを拾い集めるおばあさんと遭遇する。すかさず拾う作業を手伝って、お礼にひとつもらう。このみかんが初めて接した食べ物だった。
◆食前食後のドラマを楽しむ醍醐味
そのあと、ちょっとややこしい顧客との商談(ここではコーヒーを飲む)を終えて、お待ちかねの食事場面となる。本作の最大の見どころがこの食事場面にあることはもちろんだけれど、醍醐味は実はその直前のちょっとしたドラマにあったりする。
その意味で筆者が特に気に入っているのが、Season3の第3話。舞台は静岡県賀茂郡。冒頭、伊豆急行線にゆられる五郎が車窓に広がる海を前にのびのびする。商談場所の最寄りバス停に到着した途端、3連符のリズムを刻む4拍子のピアノとギターの掛け合い爽やかな夏のバラードがバックミュージックとしてかかり、これが格別に気持ちがいい。