◆Season10まで数える長期シリーズ
でも普通、モノローグやナレーションが多用されると、絵(ショット)で見せるはずの映像表現の本分がどうしても薄まってしまう。近年のテレビドラマ作品最大の問題点は、主人公によるだらだらモノローグが延々続く表現力の欠如にある。
なのに、五郎さんのモノローグはむしろ無言で食べる芝居を続ける松重を映像的に引き立てている。不思議である。ずっと聞いていたい。ずっと見ていたい。と思って画面を注視していると、こちらまで腹が減ってくる。
なんとまぁうまくできたドラマだろう。声(モノローグ)と絵の持続的なシンクロナイズによって、2012年のSeason1からSeason10(他に配信オリジナル2など)まで数える長期シリーズになった。
◆ドラマファンと映画ファン、それぞれの松重豊
でも改めて考えると、松重豊という名優が、ほんわか系ご飯ドラマでヒットするというのは興味深いことではないか。テレビドラマファンと映画ファン、それぞれにとっての松重豊の印象があまりに異なるからだ。
ドラマファンなら、五郎イズムの独り相撲的語りを一番の魅力だと感じるが、映画ファンにとっての松重豊は、それこそダイレクトに相撲取り役を演じた『地獄の警備員』(1992年)のイメージが強烈なのだ。
正確には元相撲取りであり、現役引退後の姿は、警備員になりオフィスで社員たちに次々襲いかかる、恐るべき殺人マシーン・富士丸役。『地獄の警備員』は松重にとって映画デビュー作でもある。監督は黒沢清。熱心な黒沢映画ファンなら、同作をベストにあげる人も多いかもしれない。
筆者もまたそのひとりで、松重豊といえばやっぱりこの作品だ。黒沢監督の大学の後輩である青山真治監督の『EUREKA』(2001年)では、役所広司扮する元バス運転手を殺人事件の犯人だと疑う刑事役を演じ、前髪がちょっとたれた薄気味悪い感じの松重のイメージも強い。