クエンティン・タランティーノの『デス・プルーフ in グラインドハウス』(07)は、公開初日に新宿武蔵野館で見たことをよく覚えているんです。クライマックスでね、あの健康優良不良女子のソバットが決まった瞬間、劇場内で拍手が起こったんですよね。100人かそこらで満席になる小さな劇場で、誰もが思わず手を叩いて喜んでしまった。

 試写会でもなく、別にタランティーノがその場にいるわけでもないただ普通の上映で、あんなふうに万雷の拍手が起こったという経験は『デス・プルーフ』以外では一度もなくて、とても印象深い作品として記憶に残っています。エンドロールが流れる中、パラパラと拍手が止んでいきました。みんな、つい手を叩いてしまった自分が照れ臭かったんだろうな。そんな顔をして、客電が上がったら澄ました顔をして帰っていきました。

 そんな『デス・プルーフ』がいちばん好きな映画だという脚本家志望の女性・リョウ(堀田真由)が主人公のドラマ『若草物語 ─恋する姉妹と恋せぬ私─』(日本テレビ系)も第3話。いよいよ、リョウが脚本家としての第一歩を踏み出すお話でした。

 振り返りましょう。

■選ばれし者の恍惚と不安

 今回は、リョウが差し当たって目指すことになった「売れっ子脚本家」が、どういう生き物なのかを語る回となりました。

 前回、幼なじみの男の子・リツ(一ノ瀬颯)とともにたった一晩で書き上げたコンテスト用の脚本が大物恋愛脚本家である大平かなえ(筒井真理子)の目に留まり、弟子入りすることになったリョウ。とはいえ、すぐに脚本を書かせてもらえるわけもなく、まずは棚の修理や電球の取り換え、そして脚本作りのためのリサーチが主な仕事となります。

 大平かなえの新作は、マッチングアプリを愛用している女性が主人公。アプリで出会ったオレ様系の男子に惹かれつつ、別の誠実な男性に思いを寄せられるというお話でした。

 しかし、第1話の脚本からして若い男性監督に認めてもらえず、書き直しはすでに18回を数えています。監督は、この「オレ様系の男子」のキャラクターを「古い」と断じ、かなえの脚本を突き返し続けている。この道40年の大御所である大平かなえでさえ、監督とプロデューサーが首を縦に振らなければ仕事を進めることができない。脚本家という職業の業界内での立ち位置が描かれます。