◆超リッチなオーナーが客に送ったありえないひとこと
次の日出勤すると、オーナーはかなりイライラしているようす。前日のバーベキューは食材も飲み物も全部、客が調達したのでヴィラの売上げはゼロ。なんとなくの流れでいきなり決めてしまったせいで、サービス料などの取り決めもなく、スタッフの残業代や光熱費だけがかさんでしまったことに今さら気づいたのです。
お金持ちをひけらかさず、誰にでも分け隔てなく接する人の良いオーナーゆえに、身勝手な客の案に飲み込まれてしまったのもわかります。あくまで相手は客なので堂々と文句も言えず、ご近所さんに対して声を大きくして言いにくいというのもあったのでしょう。オーナーは考え抜いた末に、メッセージアプリでひとこと送ることにしました。
「先日お貸ししたライターが見当たらないのですが、持ち帰ったのではないのですか。ないと困るので返しに来てほしいのですが…」
もちろん、高級ヴィラのオーナーがライター1本を盗まれて腹を立てたわけではありません。謝罪やライターが戻ってくることを期待しているわけでもなく、「何か言ってやりたい!」という思いがライター1本に込められたわけです。ある意味、この客がもう二度と現れないように、という意味では効果的な皮肉だったのかもしれません。
しかしながら、しばらくして冷静になったオーナー。世間体を気にして、このメールを送ったことを後悔し始めました。が、既読となっていて時すでに遅し。返事はなかったものの、超リッチな大人のこの行動を間近で見た私としてはドン引きする反面、かわいくも思えてしまったのでした。
<文/ゆきニヴェス>
【ゆきニヴェス】
脱サラを機にヨーロッパ中を旅し、ワイン好きが高じてイタリアに住み着いた自他ともに認める自由人。フリーライター及び取材コーディネーターとしても活動中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員