マジな話になると、いつもこうなんだよな結ちゃん。適当にはぐらかして、その後にこれみよがしに「本当は言いたいことがある」という顔をする。

 この直後のシーンもそうです。家に帰ってママ(麻生久美子)に「お姉ちゃん、何がやりたかったん? なんであんな不良みたいになったん?」と問いかけ、ママが「お母さんは歩が不良になったなんて、全然思わなかったけどな」と返すと、また何も言わずに次のシーンへ。

 その週末、いつものように天神でハギャレンの会合に出席している結ちゃんはあいかわらずつまんなそうな顔をしていますが、ここでリサポンが意外なことを言います。

「むすびん、今日元気ないね」

 ハギャレンと一緒にいるとき、結ちゃんはいつも元気がなかったはずなんです。常に「私は困っています、嫌々付き合っています」という顔をしていたし、家にハギャレンを呼んだときもパラパラこそ練習の跡が見えたものの、楽しそうではなかった。

 しかし、リサポンが「元気ないね」と言うからには、むすびんこと結ちゃんはいつも元気だったことになる。

■スローペースなのに行間を読めとか

 海辺でカッパの話をはぐらかしたとき、家でママの話にリアクションをしなかったとき、そして天神でリサポンから「元気ない」と指摘されたとき、この『おむすび』というドラマには「描かれない行間」が出現します。そのときどきに主人公が何を考え、どんな風に振る舞ってきたかを描かず「察しろ」と画面のこちら側に強いてくる瞬間です。

 それは一見、脚本上の矛盾に見えるし、矛盾を解消するためにはけっこう必死に行間を想像する必要があるわけです。サラッと流し見して全部適当に受け流しておけば大して気にならないことですが、ちゃんと物語を咀嚼しようとすればするほど、面倒ごとが増えていくんです。ただでさえものすごいスローペースで進んでいる物語に、さらに描かれない行間がたくさんある。結ちゃん同様、ドラマそのものも、これみよがしに「本当は言いたいことがある」という顔をしているんです。