しかし、夫婦の間はとことん冷え切っていたのでした。仕事が忙しいのか何か知らんけどヒロキはミワさんの全部につっかかってくるし、それでもミワさんがニコニコと愛想を振りまけば「笑うな!」とか怒鳴ってくるし、なんで不機嫌なのかも説明しないし、とにかく終始イラついています。

「子どもができれば少しは変わるかも」と意を決したミワさんが話し合いをしようとしても、まったく相手をしようともしません。もう離婚しちゃえばいいじゃんと思うんだけど、ミワさんには入院中のママ(多岐川裕美)の治療費を出してもらってたり、ママが作った借金を清算してもらったりという負い目があって、そう簡単に別れることもできない。そもそも仕事も辞めちゃってるし、差し当たってこの人と生活していくしか選択肢がありません。というか、それしか選択肢がないと思い込まされているというのが正確なところでしょう。いつの間にか、金と世間体に支配され、心を殺して生きてしまっていた。それがミワさんという女性の生活のリアルでした。

 そんなくすんだ日々を送っていたミワさんがある日、中学時代に通っていた図書館で思い出の人と再会します。2つ年下のかわいい男の子は大人になっていて、あの頃と同じようにミワさんを「ナツノ」と旧姓で呼びました。その男・冬月(深澤辰哉)は、経営していたフェアトレードの会社をバイアウトして、もうすぐアフリカに旅立つという。現地に学校を作るという、それはもうステキ一辺倒の男になっていたのでした。

 冬月に誘われるまま、ヒロキに内緒で冬月たちが主催するフリマの手伝いをすることにしたミワさん。久しぶりに超楽しいし、冬月に「ナツノ」と呼ばれるたびに心の奥底が疼くことも自覚し始めました。

 その夜、なんか知らんけど強引に抱いてきたヒロキにムカついてプチ家出したミワさんは、再び朝方の図書館で冬月と再会します。冬月はアフリカに学校を建てるほどのバイタリティを持つ男ですので、渡航当日の午前中にもかかわらずミワさんを家に呼んでセックスをしました。夜はヒロキ、朝は冬月と、ミワさんこの日はダブルヘッダーをこなしたことになります。夫への不満と、学生時代に好きだった人との再会。まあ人妻が不倫する典型的なパターンです。