もちろん「芦原先生の絵で、構成で、セリフで、物語の続きが読みたかった」。その想いはどこまでもぬぐい切れないけれど、芦原先生のご家族と編集部の方々が届けてくれた“この先”は、希望に満ち溢れているように感じました。
◆同時収録の短編も、どこまでも芦原作品らしくて涙
2016年に『月刊flowers11月号』(小学館刊)に掲載された読み切り作品『winter fool』も収録されています。
年末に故郷へと帰ってきた主人公・あづさが、とある不思議な男に出会う物語。雪に囲まれた故郷で繰り広げられるストーリーにも、芦原先生らしいハッとさせられるセリフと、いい意味で王道ではない展開が用意されています。
心にポッと灯りがともるようなラストの光景には、芦原先生のことを想わずにはいられない美しさと切なさがあり、涙を止めることができませんでした。
◆ファンとして、哀しみと悔しさはなくならないけれど
『セクシー田中さん』の続きが、もう二度と読めないこと。いつか生まれるはずだった芦原先生の新たな作品に出会えないこと。ファンとして、その哀しみと悔しさは決してなくならないでしょう。それでも、芦原先生が紡がれてきた言葉は、物語は、私たちの心に残っています。
曲がった背筋を、何度も、何度でも伸ばして今日を生きていこう。改めて、そう思わされる『セクシー田中さん』8巻でした。芦原妃名子先生。素敵な作品を、ありがとうございました。
<文/鈴木まこと(tricle.ltd)>
【鈴木まこと】
tricle.ltd所属。雑誌編集プロダクション、広告制作会社勤務を経て、編集者/ライター/広告ディレクターとして活動。日本のドラマ・映画をこよなく愛し、年間ドラマ50本、映画30本以上を鑑賞。Twitter:@makoto12130201