「軽口で雑談に応じてしまったり、あやふやな情報を話したりしてしまうことで、検察に勝手なストーリーをつくられてしまう。そこで、弁護士の過去の死刑再審無罪事件も踏まえた指示に従って、黙秘を選択したと母は話しています」

 林真須美被告(当時)は自白の誘導や強要ともいえる取り調べの実態を公判で主張したが、事実無根として退けられたという。

「裏の取りようがない部分ですが、母によれば当時、『黙秘を続けるなら次女【編注:同氏からすると姉】を逮捕してやる』と脅迫されたそうです。保険金詐欺事件3件の共犯として、逮捕・詐欺罪で起訴された父も『真須美は口を割っている』や『お前を死刑囚にすることもできる』といったやり取りが取り調べの中であったと述べています」

「詐欺師の息子の陰謀論じみた話」という声も

 物証もなく、動機もわからないまま、状況証拠という間接的な証拠だけで死刑が確定したまれな事件といえる「和歌山毒物カレー事件」。その捜査に関しては近年、状況証拠の中でも有罪の決め手とされた「ヒ素の鑑定」についても不備があったとの指摘もある。

 2013年には同事件の捜査にも関わった科学捜査研究所の元主任研究員・能阿弥昌昭が、25年以上に及ぶ長期間の勤務歴の中で証拠品の鑑定結果の書類の捏造を認めた事件もあった。「和歌山毒物カレー事件」での不正は行われていないとされるが、科学捜査への信頼が大きく損なわれた。

「判決文の中では蓋然性や、推察、推認といった言葉が多用されており、『合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されていると認められる』と結論付けられている。90人近い捜査員が1軒の民家の家宅捜索に入って、4日目にやっとキッチンのシンク下からヒ素の入ったタッパーを見つけたり、現場検証後に目撃証言が変遷していたり……。不自然な部分も多々あります」

 再審請求の中で重要な争点となるヒ素の鑑定や目撃証言の正確性などについては、映画『マミー』の中で詳らかに紹介されている。しかし、地上波をはじめマスコミ報道でこうした問題を扱ってもらえたことは、ほとんどないという。