79歳の父に代わり、メディアの取材対応のほか、同事件の再審に向けた情報発信などをSNSで行っている林真須美死刑囚の長男。“死刑囚の息子”という立場上、批判などが寄せられることも少なくないという。

「母の冤罪をどこまで確信しているかと訊かれると、『わからない』というのが正直なところです。ただ、仮に母が犯人だとしても死刑判決を下すだけの根拠を示すことが検察はできておらず、裁判の内容は崩壊していることは訴えていきたいと思っています」

林真須美死刑囚が黙秘していた背景

 カレー毒物混入事件のほかに、検察側は林真須美死刑囚を保険金詐欺事件4件、ヒ素を使用した保険金殺人未遂事件4件の合計8件で起訴。ヒ素使用事件7件、睡眠薬使用事件12件の合計19件について「類似事実」として立証を行った。

 裁判所は詐欺事件4件、殺人未遂事件3件について有罪とした上で、類似事実としてヒ素使用事件1件、睡眠薬使用事件2件について林真須美死刑囚の犯行を認定している。

「カレー毒物混入事件について、冤罪の可能性を感じたのは17年前。僕が20歳の頃に母に言い渡された判決文を読んでからです。実際に僕が見ていた事件当日の母の様子とはまったく違う姿が判決文では描かれており、『なんとしても林真須美を死刑にしたい』という検察の意地が透けて見えるような判決文でした」

 事件当時10歳だった林真須美死刑囚の長男は、実際にそれまで抱いていた母親像と大きな乖離を感じたという。

「判決文の中で母は卑劣で残忍な無差別殺人を行うサイコパスな女性、死刑に相応しい絶対的な殺意を持って犯行に及んだ“毒婦”として描かれています。僕たち家族の証言は身内を擁護する証言としてまったく考慮されず、目撃証言や状況証拠などを一方的に積み重ねることで勝手なストーリーをつくり上げられている。そして、その恣意的なストーリーに基づいて世間にも報道されてきました」

「袴田事件」も含めて過去の死刑再審無罪事件は、いずれも圧力をかけられたうえでの「虚偽自白」があったが、一審段階で林真須美被告(当時)の自白調書はなく、黙秘権を行使した。黙秘は正当な権利だが、世間や裁判官へ与える心象が悪くなる現実もある。