本人が言うように、はっきり言って「林真須美死刑囚の息子」の主張は取り上げにくい。しかし、そもそも逮捕前の実名報道などで世間の耳目を集め、検察側のストーリーを供給しておきながら、他方の声を黙殺することはメディアや報道のあり方として正しいのだろうか? 少なくとも公正さや慎重な配慮といった点を問題にするのであれば、筋が通らないだろう。

林真須美死刑囚の長男は当局の捜査の追い風になるかたちで、メディアの報道が便乗する構造も過去の死刑再審無罪事件では共通しているとも語る。袴田事件の無罪判決に合わせて、大手新聞はお詫び記事の掲載を行ったが、公権力が報道機関の信用を担保してくれるわけでもない。

「僕としては当然、よりスピーディーに再審が行えるように再審法を改正してほしいと願っています。ただ、死刑事案に限らず冤罪として再審を求められる事件の中には“危ういケース”が含まれていることは確かで、再審が通りやすくなるということは事実上の4審制になるといった議論もあります。こうした問題についての見解を問われると僕自身、答えを持ち合わせていないことも事実です」

 このような再審制度のあり方に関する議論も踏まえると、やはり冤罪防止では捜査の透明化・可視化が最優先課題と言えそうだ。

 日本では2016年の刑事告訴法改正によって、ようやく取調べの録音・録画が制度化。2019年から施行されているが、録音・録画の対象は裁判員裁判対象事件など一部の事件に限られている。

 また、広く欧米諸国において認められている弁護人立会制度が日本にはいまだに存在しない。東アジアでも韓国や台湾では実行されているが、弁護人の立会いを認めると被疑者が供述(自白)しなくなり、真相解明に支障を来すというのが警察や検察の言い分だ。

「事件記者や法曹関係者の中には、自白や動機なしで状況証拠だけで死刑判決を下した判例は、禍根を残しかねないと危惧されている方が少なくありません。証拠の捏造は言語道断ですが、人間の行う捜査である以上、捜査の誤りや冤罪をゼロにはできない。まずはその前提に立って、過去の間違いを認め、今後の捜査に活かしていく姿勢を見せなければ、検察の威信やメンツ以前に国民からの信頼を失うことになるのではないでしょうか」