突然のことに伊田さんも友人も言葉をなくし、「椅子から立ち上がれないまま、黙って見ていました」と振り返ります。

男性はふたりの真ん中にどかっと座り、「これ、お礼のビール」と言いながら缶を置き「普段からここはよく来るの?」と一方的に話し始めます。

「……」

こちらはふたりいるとはいえ相手は男性、しかも堂々と発言する様子には威圧感があり、「さすがに怖くなりました。こんな図々しい人は見たことがなかったので、どう対応すればいいのかわからずパニックでしたね」と、体が動かなかったそうです。

◆わざと“借り”を作って近づく口実を作る

すると、友人が「すみません、もう寝るところなので」と切り出し、立ち上がります。

それにつられて伊田さんも立つと、男性も慌てて腰を浮かせて「そうか。悪かったね」とぺこぺこ頭を下げながら帰っていきました。

「心臓がドキドキしたけど、すぐに帰ってくれて本当にほっとしました。友達を見たらすごく怒っていて、『何なのあの人、非常識すぎる。明日、管理事務所にクルマのナンバーを報告するわ』と言っていました。ビールはこっそり向こうの区画内に戻して、早々にテントに入りましたね」

テントの前に立つ女性たち
伊田さんは友人の頼もしさに救われたと話しますが、男性があんな行動に出たのは「私たちがライターを貸したから」だと思っています。

「考えてみたら、何かを貸したら今度はそのお礼を口実にできるんですよね。あのとき断っていたら、あのまま接触することなく終われていたのかもしれません」

でも、断るのもまた勇気が要ることですよね。そもそも、伊田さんがこんな反省をしなくてはならないのがおかしい。まともな常識のある人なら、お礼にかこつけて女性だけの場に図々しく乗り込むようなことはしないはず。

◆一期一会の場でこそ、相手の気持ちを考えてほしい

お互いに見ず知らずの他人であり「今だけのつながり」を楽しめるのもキャンプの醍醐味ではありますが、それは双方が居心地がよいと感じてこそ成り立つ間柄です。